「9・11」を生き延びた日本人たち「あれ以来腹が据わりました」

国際

  • ブックマーク

Advertisement

廊下に2メートルの火柱

 彼らより上層階の90階にいた、中国銀行ニューヨーク支店の当時の支店長、久保津敦雄氏(62)は、

「朝のミーティングの最中で、私は窓に背を向けていました。ドーンという音と同時に大きな衝撃を受け、天井板が落ちてきた。行員たちと常備していたヘルメットを着けて廊下に出ると、2メートルほど火柱が立っていた。消火器で炎を小さくして、飛び越えて逃げたのを覚えています。北棟は110階まであり、ジェット機が突っ込んだのは95階付近。私は九死に一生を得たわけです」

 かくして、生き延びた4人も、少なからず心に傷を負っていた。

「あの日から3年くらいは、デパートのような高層ビルへ行くと手汗でビショビショになりました。また、テロリストに追いかけられて逃げる夢も何度も見ましたね」(久場氏)

 とはいえ、彼らは現在も第一線で働き続けている。

「あれ以来、上司にもモノを言うようになりましたし、いつ会社を辞めてもいいと考えるようになった。つまり、腹が据わったわけです。そんな姿勢が功を奏したのか分かりません。ですが、今も、中国銀行100%子会社の常務として働き続けているし、“9・11”に遭遇した時の8人の部下たちとは今でも会って飲み会をしています」(久保津氏)

 まさに、人間万事塞翁が馬である。

週刊新潮 2019年1月3・10日号掲載

ワイド特集「平成30年史の『俗物図鑑』」より

前へ 1 2 次へ

[2/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。