患者数170万人! エンディングノートも書けない“ぽっくり病”の基礎知識

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患者数170万人! 突然人生が終わる「心房細動」(1/2)――古川哲史(東京医科歯科大学教授)

 年の瀬にこれまでの人生を振り返る。そんな暇が持てるのも健康な体があってこそ。これから紹介する心臓の病は、罹ってしまうと最悪の場合、我々に「エンディングノート」を記す余裕も与えてくれない。生活の質を著しく低下させる引き金として、高齢化が進んだ国々では大きな問題になりつつあるのだ。

 まさに「21世紀の心臓の流行り病」と呼ばれる所以だが、その基礎知識から予防法までをまとめた『心房細動のすべて』(新潮新書)がこの度、上梓された。著者で東京医科歯科大学教授の古川哲史氏は、斯界のスペシャリスト。是非ともご一読をお勧めしたいが今回は小誌読者のために、そのエッセンスを特別に解説してくれた。耳にしたことはあるが、実態がよく分からない「心房細動」とはどんな病気なのか。誰もが知るあの人まで罹っていたと聞けば、きっと貴方も他人事とは思えないだろう。

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 心房細動は非常に多くの方が罹っています。公表されている有名人の名前を見ても、故田中角栄元首相、故小渕恵三元首相といった政治家から、ダイエー創業者の故中内㓛氏、ミスターこと巨人軍の長嶋茂雄元監督、サッカー日本代表のイビチャ・オシム元監督、元バレーボール選手の益子直美さん、ドラえもんの声でお馴染みの大山のぶ代さんや最近亡くなられた女優の星由里子さんなど、挙げればキリがありません。

 厚労省の統計によれば、2016年に約90万人の方が心房細動と診断されていますが、05年では約70万人だったので約10年でおよそ20万人も増加したことになります。しかし、この患者数は過小評価された数だと言われています。

 と言うのも、見つかっている方のほとんどは常に不整脈が起こっている慢性心房細動で、後述する発作性心房細動は病院の検査で見つかりにくい。そこで各種統計を分析すれば実際の患者数は約170万人という試算もあります。

 心臓も老化するので患者さんは高齢者に多く、80歳代の方は同世代の友人が10人いたら、1人はこの病を抱えていると言っても過言ではありません。高齢化が進めば、ますます身近な病気になると思います。

 心房細動になりやすい人には二つの特徴があります。一つは遺伝的要素で、両親や兄弟が心房細動になったことがあるという方は、ご自身も罹患する可能性が高いということ。そうでない人と比較した場合、両親とも罹患している方は3・25倍で片方の親だけの場合は1・85倍、リスクが高くなる傾向があります。

 もう一つは環境的要素で特に影響するのは加齢です。30歳代のリスクが1なら60歳代は12倍強、70歳代は27倍まで罹患リスクが跳ね上がる。若い方でも、高血圧だったり過体重の方、喫煙や過度な飲酒といった生活習慣によって、容易にリスクは高くなります。

 ここで参考になるのが「吹田研究」のデータです。大阪府吹田市を対象にした現在進行形の研究で、収縮期血圧が140mmHg以上の方は、119mmHg以下の方に比べて罹患リスクが2倍。体重はBMI24以下の人に比べれば25以上の人は1・7倍になるという結果が出ています。生活習慣病という側面もあることを示していますから、予防のためにも日常生活の改善努力は決して無駄になりません。

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