患者数170万人! エンディングノートも書けない“ぽっくり病”の基礎知識

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「脳梗塞」「心不全」「認知症」のリスク

 ここまでの話を聞くと、自覚症状を感じたら病院で診てもらえばいい、そう思う方もいるでしょう。しかし、先ほど申し上げた通り、心房細動には「慢性」と「発作性」があって、実は該当患者さんの半数近く、つまり2人に1人が自覚症状がないといわれているのです。

 いわゆる「隠れ心房細動」ですが、その多くが発作性心房細動の可能性が高い。慢性患者さんの場合は、健康診断などで心電図をとれば分かるのに、発作性の患者さんは名前の通り突然起こります。心電図では事前に見つけることが困難なのです。発作的に突然起これば、その後の合併症への備えもままなりません。

 不整脈の中でも心房細動が恐いのは、命にかかわる合併症を招くこと。それをまず知って欲しいのです。

 代表的なのは「脳梗塞」「心不全」「認知症」の三つで、それぞれの発症リスクは、心房細動でない人と比べると順に5倍、3倍、2倍と高いのが特徴です。名前を聞いただけでも問題のありそうな病気ばかりですが、この中でも脳梗塞は、心房細動の患者さんで治療をせず放置した人の約5%が1年以内に発症し、10年以内になると60%と一気に増える。実に過半数の患者さんが脳梗塞になってしまうのが現状なのです。

 実際、前述した8名の有名人のうち6名が脳梗塞を併発しています。小渕元首相、中内氏は心房細動に合併した脳梗塞で他界され、同じく田中元首相も脳梗塞で身体が不自由になって社会復帰が叶いませんでした。長嶋元監督やオシム元監督は、社会復帰はされましたが、仕事を大幅に制限せざるをえなくなっています。

 それだけ心房細動による脳梗塞は生死にかかわり、重症化しやすい。ボクシングのKOパンチに例えて「ノックアウト型脳梗塞」と呼ばれます。以下、そのワケを説明してみたいと思います。

 貴方の心臓が、心房細動でぶるぶる震えている状態を想像してみましょう。そうなると、心臓からの血液が規則正しく流れなくなり、脳の血管にもゴミならぬ血栓が溜りやすくなる。特に心臓にできた血栓が、血流で運ばれ脳の太い血管を詰まらせるのを「心原性脳塞栓症」と言いますが、脳梗塞の中でもこのタイプが最も重症化しやすいのです。

 ある大学のデータでは、脳梗塞で寝たきりになった患者さんの8割が「心原性」で、約10%の方が亡くなり、40%の方が要介護・要支援となってしまいました。厚労省の統計でも、何らかの疾患で寝たきりになった患者さんのうち、心房細動を原因とする方が約2割とかなり高い割合を占めます。

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