文明社会を知らず弓矢を武器に裸で現代を生きる「イゾラド」とは… NHKスペシャルでも話題を呼んだ謎の先住民に迫る

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 12月16日に放送されるNHKスペシャル「アウラ 未知のイゾラド 最後のひとり」。2016年8月に放送され話題を呼んだ「最後のイゾラド 森の果て 未知の人々」のディレクター国分拓氏が、ふたたび南米アマゾンに生きるイゾラドの姿に迫る。

 イゾラドとは、聞き馴染みのない言葉だろう。イゾラドは、アマゾンの深い森の奥に現在も存在する、文明と全く接触をしたことのない原住民のことを指す。2016年の放送では、日に焼けた肌をさらし、眼光鋭い裸のイゾラドの姿は、現代人が想像する原始人そのもので、視聴者に衝撃を与えた。途上国でも携帯所持率が増加する一方の、通信手段が発達した現代において、通信手段はおろか、文明を全く知らず、弓矢を武器として生きる人々が地球上に存在することは、信じがたいものがあった。

 番組の担当ディレクター国分拓氏が、この取材を元に書いたノンフィクション『ノモレ』には、文明化した現地の人間が初めてイゾラドと接触した場面を以下のように描いている。
〈椰子の繊維で作ったと思われる腰巻以外、彼らは何も身に着けてはいなかった。ペニスも隠してはいない。その先端を紐で結わえ、上に持ち上げてから腰で結んでいる。アマゾンの裸族の典型的な姿だ。弓矢は持っていないようだ。〉

『ノモレ』によると、ペルー・アマゾンの川岸には「イゾラド 出現注意!」と書かれた真っ赤な看板があるらしい。幾度となく出現し、時に弓矢で人を襲ってくるイゾラドは、現地では危険な存在でもあるのだ。実際、2015年には、ある集落の若者が、弓矢で襲われ、死亡する事件が起きている。

〈見回りのため、2人の若者が畑と畑を繋ぐ森の小道を歩いているときだった。突然、左手の森から矢が飛んできた。前を歩いていたレオナルド・ペレスという若者が倒れた。左胸から入った矢は若者の体内に深さ7センチまで突き刺さり、その先端は心臓に食い込んでいた。若者は10秒も経たないうちに意識を失い、苦しむ間もなく亡くなった。22歳だった。〉

 弓矢が実践的に使われる先住民の社会では、弓矢を持っていないことは、相手を敵ではないと認識している証だという。

 タイトルの「ノモレ」とは、アマゾン先住民の言葉で「仲間」「友」という意味だ。
『ノモレ』では、文明化した先住民集落の村長が、「ノモレ」というひとつの言葉が通じたことによって、危険な存在かもしれないイゾラドの家族を「仲間」であると思う、その信念と微かな希望が描かれている。

 今回の放送は、あるイゾラドの30年の記録だ。「アウラ」とブラジル政府によって名づけられたイゾラドは、同じ民族の仲間が死に絶え、今やたったひとりで生きる。

 番組の制作にあたり、「『分からないこと』に微かな接線を引くことをだけを考えた」という国分氏。地球上で言葉が通じる人間がひとりもいない――比類無き孤独と生きるイゾラド、アウラの映像は、文明批判といった二元論を超える大きな問いを、ふたたび投げかけることだろう。

デイリー新潮編集部

2018年12月14日掲載

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