「女子マラソン元日本代表」を苦しめる“窃盗症(クレプトマニア)”という病 専門家が解説

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不合理と分かっていながら、万引きを繰り返す

 女子マラソン日本代表だった原裕美子氏(36)に、12月3日、“万引き”での有罪判決が下された(懲役1年、執行猶予4年)。原氏は2017年に、コンビニで清涼飲料水を万引きして逮捕。執行猶予中である今年2月に、今度はスーパーマーケットで380円分の菓子を万引きし、ふたたび逮捕された。

会見に立った原氏は、医師から「病的窃盗」と診断されたと告白。この精神疾患は窃盗症(クレプトマニア)とも呼ばれ、“万引きをやめたくてもやめられず、衝動が抑えられず何度も繰り返してしまう”状態を指す。

その実態は、いかなるものなのか。万引き依存症患者のための専門外来を日本で先駆的に設けている、大森榎本クリニックの精神保健福祉部長で、著書『万引き依存症』(イースト・プレス)がある斉藤章佳氏(精神保健福祉士・社会福祉士)に話を聞いた。

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 一般的に万引きから連想するのは「貧困」というワードだが、すでに万引きが常習化している人にとって、経済的な問題が重要なわけではないと斉藤氏は指摘する。

「十分な金銭を持っていて、経済的にまったく困っていないのに窃盗衝動を抑えられず繰り返し万引きする患者を200人以上見てきました。つまり、万引き依存症が深刻なのは、『重大な法的リスクを冒してまでも、またさほど欲しいものではなくても、たった数百円の物を衝動的に盗ってしまう』不合理性にあるのです」(斉藤氏、以下同)

 万引き依存症の人が執行猶予期間中でも再犯する例は数多くあり、実刑になることがわかっていても、「盗みたい」という衝動が抑えられないというのがこの病気の本質だという。

 たとえば、過去には執行猶予期間中かつ、娘の披露宴当日の直前にスーパーで万引きしてしまった母親のケースがあり、多くの人はその母親を「まったく反省していない」「意志が弱い」と感じるかもしれない。

 しかし、斉藤氏のような専門家から見れば、娘の晴れ舞台間際でも万引きをしてしまうのはかなり重度な「万引き依存症」だと判断できるのだ

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