「宅配ドライバーはヒゲを剃れ」の違和感(中川淳一郎)

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 他人の外見にいちいち文句を言う人が嫌いです。この前、いつも荷物を届けてくれる宅配便の男性(推定50歳)が、ヒゲをすっかり剃っていました。彼は、某大手・Aの下請けとして働いており、ユニフォームはその大手のものを着用しています。

「ヒゲはどうしたんですか?」と聞いたら「Aから剃るよう命令されたんですよ……」と答えました。彼は立派な口髭以外の部分はきちんと剃っており、それなりにケアはしていました。

「清潔感を保つように」「お客様に不快感を与えてはいけない」みたいなことがヒゲを剃らせる根拠なのでしょうが、整えたヒゲは不潔には見えません。もしかしたらクレームがあったのかもしれませんが、「巨人軍は常に紳士たれ」を謳う読売ジャイアンツへの移籍で小笠原道大がヒゲを剃った時の衝撃を思い出しました。

 様々な“常識”がこれまで何年もかけて壊されてきました。それなのになんでヒゲごときをここまで問題視するのだろうか。

 かつては、中高生が髪の毛を染めたら不良扱いされ、丸刈りにされることもありました。男性が右耳にピアスをしていたらゲイ扱いされましたし、そもそもピアスをする男性は胡散臭がられていました。今はそんなことはありません。

 あと、よく分からないのが、公務員やメーカー、インフラ系の仕事をするホワイトカラーが背広を着なくてはいけないことです。一方、普段私が接するIT系企業のコンテンツの制作やプロデュースなどをする部署でスーツを着る人は皆無。それなのに同じ会社の営業系はスーツを着ている。

 ドレスコードの重要性は認めるものの、正直、きちんと仕事さえしてくれれば、背広は着ないでもかまいませんし、ヒゲだってあっていいと思うのですよ。どうもこの世の中は「この立場だったらこの格好でなくてはいけない」といった不文律があるようで、実に気持ち悪い。

 ついでに言うと不思議なのが野球の監督です。別に打席に立ったり守備についたりするわけでもないのに、なぜ選手と同じユニフォームを着て帽子までかぶっているのでしょうか。他のスポーツでは、選手と同じユニフォームを着た監督はとんと見ない。背広や普段着の監督だらけです。

 バスケのノースリーブ&短パン、サッカーの短パン、アメフトのヘルメット&プロテクターを監督が着用していたら滑稽で仕方がない。

 相撲の場合、土俵下にいる親方はバシッと和服を着こなしていますが、あれがまわし・ちょんまげ姿だったら情けなさ100%です。駅伝の青山学院大学のイケメン監督・原晋さんが選手と同じようにノースリーブ&短パンで襷でもかけていようものなら笑いがこみあげてしまいます。新体操のコーチがレオタードを着ていたり、レスリングの監督があの格好で脇毛ボーボーだったら大爆笑です。

 このように、格好を統一しすぎてしまうとおかしなことになるわけで、冒頭の「宅配ドライバーはヒゲを剃れ」というのには改めて考えても違和感があります。ユニフォームはその会社の人だと知らせるためには必要でしょう。でも、それ以外は自由でいいんじゃないですかねぇ。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんしゅうきつこ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2018年11月29日号掲載

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