「中国のスマホを使うな!」トランプ政策から考える「軍事技術と民間企業」

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ファーウェイを使うな

 アメリカのトランプ政権が、中国の通信機器大手「華為技術(ファーウェイ)」の製品を使わないよう、日本などの同盟国に求めたと米紙が報じている。同社のスマホは日本でもすっかりお馴染みなだけに、大統領の「中国は儲けすぎだ」といういつもの主張に沿っての方針のようにも見えるが、それだけではない。

 米軍基地など重要施設がある場合、同社の製品を使うことで中国に傍受されたり、通信を妨害されたりするリスクが高まる、というのがその理由だ。

 通信技術やスマホ関連のニュースといっても日本では「若者の間でこんなアプリが流行しています」という類、あるいはPCを使わない大臣といった話題ばかりが目立つのだが、もちろん世界はそんな呑気な状況にはない。軍事技術と民間企業とが密接に関連しているのが世界標準だといってもいい。

 国民皆兵制で知られるイスラエルは、高度な軍事・諜報関連技術が、民間経済の活性化に貢献している代表的な国の一つだ。

 現在、イスラエルは毎年1千社を超えるベンチャー企業が誕生するイノベーション大国となっているのだが、その原動力はイスラエル国防軍なのだ。日本人には馴染みがうすい「イノベーション大国」としてのイスラエルをレポートした『イスラエルがすごい』(熊谷徹・著)をもとに見てみよう(以下、引用は同書より)

超エリート8200部隊

 イスラエル国防軍には、電子諜報を担当する「8200部隊」が存在している。

「8200部隊の主な任務は、周辺国やテロ組織の固定電話、携帯電話、衛星通信、電子メールなどによるコミュニケーションの盗聴、暗号によって秘話化された通信内容の解読、敵国からのイスラエルへのサイバー攻撃の防御である。

 盗聴活動は、イスラエル南部・ネゲブ砂漠のウリム通信傍受基地を拠点として行っている。さらに、周辺諸国やテロ組織のITシステムに侵入して、データを盗み出して分析し、国家防衛のために活用する。いわば軍が組織的に行うハッキングである」

 8200部隊の評価は高く、英国のシンクタンク「英国王立防衛安全保障研究所」が、「世界で最も卓越した電子諜報機関の1つであり、規模の違いを除けばアメリカの国家安全保障局に引けを取らない」と述べているほどだ。

 そして、この8200部隊のユニークな点は、数々の企業家を生むインキュベーター(孵化器)となっている点だ、と熊谷氏は指摘する。

「米誌『フォーブス』は、8200部隊の出身者が創業したベンチャー企業が約1千社にのぼると推定している。現在世界のサイバー・セキュリティ市場のベンチャー投資額の約15%が、イスラエルに流れ込んでいる。もしも8200部隊がなかったら、イスラエルがサイバー攻撃防御の分野で世界的なリーダーになることはあり得なかった。

 たとえば世界有数のサイバー防御ソフトメーカーであるチェック・ポイントの最高経営責任者(CEO)ギル・シュエッドは、8200部隊の出身者である」

 このような人材を輩出できているのには、理由がある。18歳以上の男女に兵役義務があるイスラエルでは、男性は3年間、女性は2年間にわたり兵役に就かなくてはならない。しかし兵士の中で8200部隊に入れるのは「超エリート」のような存在だ。

「軍は入隊前、若者たちがまだ16歳の時から、素質や能力、創造性、適性に関するスクリーニング検査を行う。そして軍は、ITに関する豊富な知識や他の人とは違った発想法など、特殊な才能を持つ若者だけを8200部隊に配置する。短期間に知識を習得する能力も重視される。ここに配属されるのは、『全体の1%からさらに選りすぐられた1%』と呼ばれる。8200部隊は、イスラエル国防軍きっての超エリート部隊なのだ」

 前述のシュエッドCEOは、兵役を終えたのちベンチャー企業勤務を経て、1993年、8200部隊の元戦友たちとチェック・ポイント社を設立。元戦友の祖母のアパートを間借りしてスタートした同社は今や世界的なサイバー・セキュリティ企業となっている。

 軍事技術というと、日本ではアレルギー反応を示す向きは少なくない。大学教授らの中には、大学での軍事研究に反対する運動を積極的に行う人も数多くいる。しかし、イスラエルの成功例は、世界の現実を知るうえでは格好の材料だと言えるだろう。

デイリー新潮編集部

2018年11月30日掲載

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