暴走か融和か トランプ流「民主主義の殺し方」

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 ドナルド・トランプ共和党政権の行く末を占う米中間選挙が終わった。結果は事前予測どおりで、上院は共和党が多数派を維持し、下院は民主党が過半数の議席を奪還した。大統領と議会多数派の政党が異なる「分割政府」状態となり、共和党が進める政策は今後停滞することになる。また、下院で各委員会の委員長ポストを獲得する民主党はトランプ大統領への追及を強める見込みで、ロバート・モラー特別検察官が調査するロシア疑惑の展開とともに、政局を緊迫させそうだ。

 しかし、これでトランプ大統領がおとなしくなると思ったら大間違いだ。選挙後すぐに、ロシア疑惑で防波堤の役目を果たせなかったセッションズ司法長官を更迭すると、民主党に対しては、疑惑追及を進めれば報復すると脅しをかけた。今後、民主党との対立が深まるなかで、いら立ちを募らせ、「独裁者」としてアメリカの民主主義を破壊する可能性も考えられる。

 米ハーバード大学教授のスティーブン・レビツキーとダニエル・ジブラットは、近著『民主主義の死に方』の中で、民主主義を内側から破壊する独裁者の「4つの行動パターン」を示している。この行動パターンが驚くほどトランプ大統領の行動と一致するのだ。2016年の大統領選まで遡り、トランプ大統領の言動を振り返ってみよう。

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(1)暴力の許容・促進

 レビツキーとジブラットによれば、これまで100年のあいだ、アメリカで主要政党の大統領候補が、暴力を支持したことはなかった。しかしトランプはこのパターンをあっさり破ったのだという。大統領選挙の期間中、支持者による暴力行為を認めただけではなく、ときにそれを歓迎するかのような態度をとったのだ。

「誰かがトマトを投げつけようとしているのを見たら、そいつを叩きのめしてしまえ。いいかい? 私は本気さ。とにかく、ぶっ倒すんだ。裁判費用は私が支払うことを約束する。必ずね」(2016年2月1日、アイオワ州)

「むかしはよかった。ああいう輩(やから)がこういう場所に来たら、むかしはどうなっていたと思う? 担架で運び出されていただろう。そうさ……顔を殴ってやりたいね、まったく」(2016年2月22日、ネバダ州)」

(2)対立相手の正当性の否定

 独裁的な政治家は、ライバルに犯罪者、破壊分子、非国民というレッテルを貼り、彼らを安全保障や現在の生活に対する脅威だとみなそうとする。トランプはこの基準も満たしているという。

 トランプはヒラリー・クリントンの対戦相手としての正当性を否定し、彼女に「犯罪者」の烙印を押して「刑務所に行くべきだ」と繰り返し訴えた。そして決起大会でトランプ支持者が「クリントンを投獄しろ!」と叫び出すと、トランプが拍手で応える場面もあったという。

(3)対立相手や批判者の市民的自由を率先して奪おうとする姿勢

 独裁者と民主的な指導者が大きく異なる点として、批判に不寛容であるという点が挙げられる。彼らは自分たちの力を使い、野党、メディア、市民社会のなかにいる批判者を懲らしめようと考えるのだと同教授らは指摘する。2016年、ドナルド・トランプもそのような姿勢を示した。

「選挙のあとにヒラリー・クリントンを調査する特別検察官を任命する計画があることを明らかにした彼は、クリントンは刑務所送りになるべきだと言い放った。トランプはさらに、非友好的なメディアに対して罰を与えるとたびたび脅した。たとえばテキサス州フォートワースの集会のなかで、彼は『ワシントン・ポスト』紙のオーナーであるジェフ・ベゾスを攻撃した。『私が大統領になったら、ああ、彼らはたいへんなことになるだろうね。とんでもないことになるよ』」

(4)民主主義的ルールを軽視する姿勢

 トランプは、大統領選の選挙プロセスの正当性に疑問を投げかけ、結果を受け容れない可能性があると発言をした。米国で不正投票が起きる割合はきわめて低く、選挙は州や地方自治体によって管理されているため、国レベルでまとまった不正投票を行なうことは事実上不可能だ。にもかかわらず、トランプは選挙人名簿に登録された何百万人もの不法移民や死亡者がクリントン候補のために動員されていると主張し、数カ月にわたってウェブサイトはこんな一文を掲載した。「インチキ者のヒラリーによる選挙の不正操作を止めるために、私を助けてくれ!」

 トランプの言葉の影響力は大きく、『民主主義の死に方』では、当時の世論調査で、有権者の41パーセント(共和党支持者の73パーセント)が、選挙の勝利が不当にトランプから奪われる恐れがあると答えたという事例が紹介されている。言い換えれば、共和党支持者の4人に3人は、自由選挙権を有する民主主義体制のもとで暮らしているかどうか定かではないと考えていたことになる。

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 トランプ大統領はこれら独裁者の行動パターンのすべての基準を満たした。とはいえ、独裁者の資質を持つ者が、必ずしも独裁者になるわけではない。民主主義から独裁へと移行する過程には、必ず党派間の激しい対立や報復合戦が存在するというのが、レビツキーとジブラットの指摘だ。共和党はトランプ大統領の暴走を止めることができるのか。また民主党は弾劾などの極端な手段に出ることを自制できるのか。今後のアメリカ政治の展開に注目だ。

デイリー新潮編集部

2018年11月8日掲載

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