“髪切った?”はボーダーライン 専門弁護士が教える「セクハラ」告発されないためのケーススタディ

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「パワハラ」「セクハラ」告発されないためのケーススタディ(3/3)

 パワハラやセクハラ問題を得意とする田中康晃弁護士(田中・石原・佐々木法律事務所)の解説のもと、意図せず“加害者”にならないための方法を考える。パワハラの“例”に触れた前回につづき、今回はセクハラのケーススタディの紹介に移りたい。

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 先述のように(※第1回参照)、セクハラについては男女雇用機会均等法の第11条に、「職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されること」と記されている。が、田中弁護士によれば、要するに、

「上司が男性で部下が女性の場合、セクハラかパワハラか区別がつきにくい。性的な行為や表現を伴うとセクハラと判断される、という解釈でよいと思う」

【外国人社員が多い宴席でのこと。挨拶として、たがいの頬を数回重ね合わせる習慣がある国の人がいたので、日本人の上司も、女性部下Aに同様の挨拶をした。】

「セクハラの認定基準として、14年3月28日の大阪高裁における、“当該行為の直接の相手方の主観だけでなく、当該企業の職員構成や営業内容等も踏まえつつ、その一般的な職員の感覚も考慮して判断する”という判例があります」

 で、これを踏まえると、

「軽いハグにも抵抗を覚える人が多いのが日本。頬を重ねる行為に、女性部下Aは強い抵抗を感じたと考えられます。文化の異なる日本で、ましてや日本人同士でこれを行えば、外国文化に乗じて過剰な接触をしようという下心があった、と判断される。たとえ上司が周りに合わせようと思っただけでも、Aが“場を利用している”と判断したらそれでアウト。訴えられてもおかしくありません」

お茶くみ、「ちゃん」づけ

【上司が女性社員にばかりお茶くみをさせる。あるいは、女性社員を「ちゃん」づけで呼ぶ。】

「お茶くみのケースは、お茶くみを職務の一つとする社員がたまたま全員女性なら、問題ない。でも、男女が同じ職責を負っている環境で、女性にだけお茶くみをさせれば、セクハラに該当する可能性が高いです」

 一方、「ちゃん」づけは、

「特定の女性にだけ“ちゃん”づけし、その人が嫌がっていれば、セクハラになる可能性が高い。また“ちゃん”づけを周囲が差別と受けとり、結果、職場環境が悪化するというのも差別認定の根拠になる。この手のセクハラは法律的に“環境型”と呼ばれます。1人だけ“ちゃん”づけされた結果、“あの子、ひいきされている”という周囲の視線が気になり、職場環境で不快な思いをし、ひいては仕事がしづらくなる、というケース。言われた当人だけでなく周囲にも悪影響を与えている点も、セクハラの該当理由になります」

【上司が女性社員の容姿や服装に言及した。また、上司が女性社員に好きな異性のタイプを聞いた。】

「状況次第。派手な服装がそぐわない職場、たとえば葬儀会社で、パンツが見えそうなミニスカートをはいてきた女性社員を注意しても、違法になりません。問題になるのは、“彼氏に似合うって言われたの?”と聞くようなケース。そこに少しでもいやらしい感じが含まれていると、セクハラ認定される可能性がある」

 加えて難しいのは、

「誰に言われるかもポイントです。ある後輩弁護士は“福山雅治になら、なにを言われてもセクハラにならない”と言っていた。言い方と表情が自然でいやらしさを感じさせなければ大丈夫なようです。しかし、生まれつき爽やかなルックスの持ち主ばかりとはかぎらない。頑張っても嫌悪感を抱かれてしまう人もいるでしょう。これを言ったら危ないかな、と思ったら、なにも言わないのが無難です。セクハラは悪気ない一言がきっかけになることが多い。“自分は大丈夫”と思っている人ほど要注意です」

 また、あなたが福山雅治であっても、

「“君、かわいいね”“化粧が濃いね”という表現はアウト。“今日のメークは決まってるね”“髪切ったんだ”もボーダーラインです。たとえば、髪を切ったのは“彼氏と別れたからじゃないか”という雰囲気を醸し出しつつ、ニヤニヤ笑いながら話しかけ、女性が主観的に不快だと思えば、セクハラ認定されるのが最近の流れです」

 好きな異性のタイプを聞くことについては、

「女性から話しかけられたのなら、聞いてもいい。女性に“奥さんはどういう人ですか?”と聞かれ、対応して、自然な流れのなかで聞くのなら、セクハラやパワハラに当たりません」

 逆に言えば、自分から聞いてはいけないのだ。

女性1人では誘わない

【課長が女性の部下と1対1で、慰労の食事をした。また、部長が取引先との宴席に、同じ女性社員を週に3回も4回も連れていった。】

「酒を伴う夜の1対1の食事は避けたほうがいい。あとでセクハラされた、パワハラされたと言われても、2人だけだと言い逃れできない。“嫌だったけど断れなかった”と、実質的に業務命令だったように言われると、反論のしようがない。特定の女性ばかり誘うのもダメ。部長とヒラのように絶対に断れない関係性の場合、週3回も4回も誘っただけで、なにもなくても限りなくアウト。パワハラ、セクハラのどちらで訴えても女性が勝つ公算が高い。裁判になっても、週に3回、4回と聞けば、裁判長は、かなりしつこく誘ったという心証をもつでしょう」

 さて、最後のケーススタディである。

【上司が女性部下Bに、ある女性新入社員の採用理由を「容姿がよかったから」と冗談で言った。】

「Bの容姿への言及ではありませんが、この言及を不快に受け取ったBの職場環境が悪くなる。典型的なセクハラ案件です」

 ここまでの事例をマニュアル化するのは難しい。しかし、パワハラ、セクハラで告発されるリスクを常に意識し、迷ったら言わない、そして即座に怒らないことだろう。言った者勝ちの上司受難の時代に異議があろうとも、そうして身を守るほかないのだから。

週刊新潮 2018年10月11日号掲載

特集「専門弁護士が教える『パワハラ』『セクハラ』告発されないための『ケーススタディ』」より

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