逃亡「樋田容疑者」が山口県周南市で逮捕、漫画「サイクル野郎」との驚くべき共通点

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爆弾魔とサイクリング

 東京を出発して1年10カ月、東北、北海道、東海、近畿、四国と日本の4分の3以上を走破した輪太郎は、岡山県のドライブインでやはり自転車で日本一周をしているという男から声をかけられる。4、5日前に六甲山を登ったときに足を踏み外し、頭を打って記憶喪失になったため、一緒に旅をしてくれないかと頼まれるのだ。

 だが、この男、5カ月前に訪欧する総理のチャーター機に爆弾を仕掛けようとして逮捕され、兵庫県のS刑務所から脱獄してきた“爆弾魔”大山雷太受刑者だった。大山は岡山のドライブインまでは貨物トラックに忍び込み、そこで別の日本一周中(カバンに書いてある)の自転車を盗んで、輪太郎に近づいたのだ。

 大山は新聞やテレビのニュースを輪太郎の目に触れさせぬよう気を配りつつ、警察の検問も難なく突破。しかし、輪太郎は一緒に走り、野宿するうちに、同じ日本一周中にしては、大山の肌は日焼けもなく、太腿も細いことから疑問を持ち始める。脱獄囚であることがバレたと悟った大山は、今度はオモチャの火薬から自作した爆弾で脅しにかかる。警察も大山が自転車で移動していることにようやく気づくが、輪太郎が人質にされることを恐れてなかなか手が出せない。

 そんな中、岡山県真庭市の神庭の滝で、疲労から崖下に落ちかけた大山を輪太郎は悩みつつも助けてしまう。そこで大山は心を開く。「逃亡生活には疲れた……」と。しかし、自首する前に子供の頃に見た、「鳥取の砂丘に夕日が落ちるのを」見たいと言うのだ。

 その言葉を信じた輪太郎は、パトカーが列を成して連なる中、鳥取をひたすら目指す。ようやく鳥取砂丘にたどり着くが、日本海には大山を救出に来た“組織”の船が浮かんでいる。砂丘の2人を500人もの警官隊がジリジリと迫る中、大山は輪太郎にこれまで迷惑をかけたことを詫び、「青春の記念碑の日本一周成功するよう祈ってる」と叫ぶと輪太郎を突き飛ばした直後、救出を諦めた“組織”によって射殺されるのだ――こんな劇画的なストーリーだったっけ?と、驚く方も多いだろう。

 それを描いたご本人ですらそうなのだから。

「そんな話でしたかねえ。いやもう、すっかり忘れてましてね」

 と、もうじき78歳になるという荘司としお氏は言う。近頃、マンガは描いていないそうだが、声はお元気である。

「いやもう、耳も目も悪くてね。細かいことは忘れているけど『サイクル野郎』を描いていた頃は、私も自転車じゃないけど、車やバイクで日本一周をしたもんですよ。やっぱり景色や街並みを正確に描きたいからね。運転しながら写真を撮るから、ちょっと危なかったこともありましたね」

 懐かしむ荘司氏である。ネットでは、再逮捕された樋田容疑者について、「サイクル野郎」を思い出しているファンがいることを伝えると、

「そうですか、ありがたいですね。まあ、今回の事件を見ていると、自転車だと警察も甘く見るところがあるようだね。車やバイクほど調べないのかもしれない。だから、自転車を選んだということがあるのかなあ。でもね、自転車であれほどの距離をこいだわけでしょ。そんな根性があるなら、改心してくれたらよかったねえ」

 ちなみに樋田と同行していた無職の男も、占有離脱物横領の容疑で逮捕された。盗んだ自転車で日本一周をしていたわけだ。こちらも罰あたりである。

週刊新潮WEB取材班

2018年10月1日掲載

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