日本初の“受刑者専用”求人誌「Chance!!」 女性編集長が創刊の意義を語る

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ヤンキーだった過去を経て

 採用された13人中、1人は“飛んだ”。

三宅:1人は行方不明、1人は5日で辞めた、もう1人は採用が決まったのに入社せず。“飛ぶ”(ある日突然行方をくらませること)のに慣れたわけではないですが、いまはそれも想定内です。この仕事を始めた当初、まだ就職誌を作る前は悔しくて……。当社の人財第1号は、拘置所に逆戻り。面会に行って思わず怒鳴ってしまいました、泣きながら「バカヤロー!」って。向こうも涙を浮かべてましたけど。

 三宅氏は少年院や刑務所にこそ入っていないが、中学時代から非行を繰り返していたという。高校1年の時には家を出て、当時の恋人と同棲をはじめ、高校は退学となった。当時の写真を見ると、見事なヤンキー。地元のお好み焼き屋に就職したが、父が訪ねてきた。手渡されたデカルトの「方法序論」は、何が書かれているのかサッパリ分からず、高校に入り直し、早稲田大学に進学。卒業時は28歳になっていた。

三宅:それで大手情報通信系の会社に10年務めて辞めました。人材育成関係への転職を考え、課題の多い人にたくさん接することが何かの役に立つのではないかと思って、受刑者支援の団体などでボランティア。そこで非行歴や犯罪歴のある人が社会復帰しようにも困難であることを知ったんです。

 15年7月にヒューマン・コメディ社を設立する。

三宅:社員は私1人です。それでも企業の掲載料だけではやっていけないので、ほかに事業をしています。「コメディ」ってつくから、ふざけているように思われるんですけど、「全部ネタにしちゃえばいいじゃん」っていうのが根っこにある。もちろん、刑務所に入っているような方にしてみたら、とてもネタになどできないことをしでかした過去があるとは思います。その罪については一生背負わなければならないけれど、出所してからは人を喜ばせるように生きて、最期に笑って死ねたらいいじゃないかって思うんですよ。

 そして今年3月に「Chance!!」を発刊した。新聞やネットでも紹介されることもある。

三宅:「〈犯罪者に支援する必要はない〉ってコメントが8割方ですね。社会は優しくはないですよ。〈犯罪する奴など一生出て来るな〉なんて書き込みもある。でも、誰にだって間違いはある。私もこのあいだ農道のネズミ捕りで、31キロオーバーで捕まりましたけど、これだって立派な犯罪なんですよね、赤キップだし。そこに人が飛び出してきたら、轢いてしまっていたかもしれない……。

「Chance!!」の目的はどこにあるのだろうか。

三宅:更正させようなんて思ってない。難しいですから。彼らにとって、社会に復帰できるきっかけになればいい。刑務所に一度入ると、犯罪へのハードルが下がるらしいんです。シャバに出てきても、「行き詰まるとまた戻ればいいや」と思えてしまうらしいんです。そう考えないようになるきっかけになれたらいいです。

週刊新潮WEB取材班

2018年9月26日掲載

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