麻生太郎財務相「サマータイム廃止は朝日新聞の責任」発言を検証してみた

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通勤ラッシュ時は「負傷者3倍」

 翌49(昭和24)年、最初に異議を申し立てたのは、朝日新聞ではなかった。法律を遵守しなければならない公務員がサマータイムに不平を漏らしたのだ。

 読売新聞は4月1日「官吏の勤務30分繰り下げ サンマー・タイムに臨時措置」の記事を掲載した。この当時、公務員の勤務は午前8時30分開始。民間の会社員は午前9時ごろで、このズレが期せずして時差出勤の役割を果たしていた。

 しかし夏時間になると、公務員は午前7時30分までに出勤しなければならない。遅刻者が続出し、これが午前8時に出勤が繰り上がった民間社員と鉢合わせ。当時の国鉄などは大混乱に陥ったという。

 これに怒りを表明したのは同じ読売新聞の朝刊1面コラム「編集手帳」だ。4月4日掲載分はこの問題を取り上げ、相当に強い調子で糾弾している。

《法律できめてあるから国民は不便だのなんだのとブツブツいいながらも一応夏時間は守っている◆それなのに官吏だけが何故それを守ることができないのか》

 さらに論評抜きに現場のリアルな状況を伝えたのは朝日新聞だ。4月10日に「負傷者従来の3倍 夏時刻実施で また通勤地獄」の記事が掲載されている。

《サンマー・タイムの実施で官庁が出勤時刻を民間同様9時にそろえたため、毎朝8時半―9時の省電ラッシュはもの凄く、またまた通勤地獄を再現している。東鉄ではこの緩和策に苦心し車体増結や発駅変更など応急策を講じているが、時差出勤でもやらない限り殺人ラッシュは解消しようもない。
 去る4日の夏時刻実施以来、各駅とも積み残しが激増、新宿駅では最高1800人ぐらいが上り線ホームにあふれ、混雑による負傷者も従来の3倍に跳ね上がっている。しかも11日から各学校が新学年に入るので、通勤と通学が8時半―9時の30分間を中心に鉢合わせする形となるが、輸送力の方は既に限度一杯まできているので、これ以上の増強は望めず「官庁勤務者を一般と同じ時間帯に投入したことに最大の難点があり、4月中だけでも官庁を8時半出勤に直すことが先決だ」と東鉄当局は完全に手をあげた形だ》(編集部註:一部、改行を省略)

マイナス6度でも「夏時間」

 やはり国民の不満は、マスコミの報道で醸成されたわけではなかった。例えば季節感の問題がある。4月や5月に「夏時間」と言われても、特に東北や北海道の気候は全く異なる。桜も咲いていない地域さえあるのはご承知の通りだ。

 世界で初めて人工雪の製作に成功した北大教授の中谷宇吉郎(1900〜1962)は52年4月2日、毎日新聞に「夏時間」というコラムを寄稿し、当時の混乱を振り返っている。

 本当は初年度が5月実施で、2年目が4月実施なのだが、記憶違いのためか中谷氏は「初年度が4月、2年目が5月」と誤記している。だが、そこに記録された情景はリアルなものだったに違いない。

《はじめて夏時間を採用した年の春、私は北海道の雪深い田舎にいた。4月1日は積雪最深期で、まだ6尺(編集部註:約1.8メートル)近く雪があった。最初の年は、4月1日から採用したのである。
「明日からサンマー・タイムですから、時計の針を1時間進めて下さい」という回覧板をもって、役場の人が、農家を一々回って説明した。
「サンマー・タイムって何じゃね」
「夏時間という意味で、夏は日が早く出るから、1時間早く起きることにするんだそうだよ」
「へえ、今、アメリカじゃあ夏なんかね」
 という会話が至るところでかわされ、そして誰も不服をいわなかったそうである。
 6尺の雪に埋もれ、あかぎれだらけの手足で冬仕事にいそしんでいた農民たちにとっては、「夏」時間は、まさに驚くべき異変であった。次の年から5月1日に延期されたが、事の本質にはちがいがない。すなわち日本のように気候の幅が広い国では、一律にことを決めることが無理なのである》

 最初は無批判に受け入れてみたものの、次第に違和感が増していく様子が鮮明に伝わってくる。ちなみに朝日新聞も同趣旨の記事を掲載した。49(昭和24)年4月4日の「こたつで迎えた“夏時刻”北海道では雪まで降った」をご覧いただこう。

《きのう3日の日曜から幕をあけたサンマー・タイムは、名にそむいてとんでもない寒さ。北は北海道から南は九州まで寒くて眠い夏時刻第1日だった――札幌では零下6度、帯広では零下9度で平年より6、7度も低く、朝からニシン曇り、まだ19センチも雪が積もっている札幌ではこの日も雪がちらつき、まだまだストーヴは離せず、仙台でも零下1度まで下がってこたつの中で迎えたサンマー・タイムだった。
 東京でも平年より1度ほど低くてやっと4度。朝からどんよりした花曇りに小雨さえ降り出し、芽ぐみ始めた銀座の柳が震え、いつもの日曜なら10時ごろにはエンエンと行列を作る劇場や映画館のまわりも出足はたっぷり1時間遅れた。
 九州では太陽が出たのがようやく7時ごろ「あしたからの出勤は日の出前に出かけなくては」という不平がチラホラ……》

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