「プレミアムフライデー」はなぜ失敗したのか 古谷経衡が一刀両断!

社会2018年2月9日掲載

  • 共有
  • ブックマーク

空振り続き?

 第2次安倍政権発足以降、さまざまな新語やキャッチフレーズが生まれたのはご承知の通り。「地方創生」「一億総活躍」「働き方改革」「生産性革命」「人づくり革命」等々。

 もちろんこれは安倍政権に限った話ではなく、過去の歴代政権も常に何らかのキャッチフレーズを打ち出してきた。また、自民党政権に限った話でもなく、最近では民主党政権時代に「コンクリートから人へ」というものもあった。

 往々にして、この種のキャッチフレーズは空振りしがちだ。政府や政治家が意気込んでも、「そうか! 革命しよう」と素直に考える人は多くない。

 近年の「空振り」の代表例としては、「プレミアムフライデー」も挙げられるかもしれない。経産省主導で始まったこの運動、簡単に言えば「金曜日を半ドンにして余暇を楽しみましょう」というものだ。そこには「余暇が増える→労働者はハッピー→消費が増える→企業もハッピー」という皮算用があった……が、現実にはあまりこれでハッピーになっている人は存在していない。制度を利用しているのは働く人の3%という報告もあるほどだ。

 そのため「まだやってるの?」と思う向きもいることだろうが、実は今でも存続している。「プレミアムフライデー」のキャンペーンサイトを覗いてみれば今でも情報は更新され続けているし、関連イベントも紹介されている。

 ただし、どう贔屓目に見ても、今ではほぼ忘れられつつある存在と言ってもいいだろう。

 なぜ「プレミアムフライデー」は失敗したのか。著述家の古谷経衡氏は、新著『日本を蝕む「極論」の正体』の中で、そもそもこの運動自体が、極端な人たちの空論に基づくものだったからだ、と斬っている。以下、同書から古谷氏の分析を紹介しよう(引用は同書より)。

 プレミアムフライデー(以下、プレ金)の前提は「土日が休み」ということである。だからこそ金曜日を半ドンにすれば「2・5日休み」になる。

土日休みは常識ではない

 しかし、そもそもここに勘違いがある、と古谷氏は言う。

「果たして、現在の企業で『完全週休2日制』を達成している企業はどれくらいあるのか。厚生労働省における2016年度の『就労条件総合調査結果』によると、達成率は全企業の49パーセントと、半数に満たない割合であった。

 業種別にもデータが出ており、最低は『運送業・郵便業』の25・1パーセント、最高は『金融業・保険業』の90・7パーセントと業種によって極めてばらつきが多い。そのほか、達成率が低い業種は『宿泊業・飲食サービス業』の34・0パーセント、『建設業』の27・4パーセントなど、暦に関係なく納品・納期・サービス提供を迫られる業種に偏重していることがわかる。

 当然、これらの業種に従事する労働者にとっては、『プレ金』の前提としての『週休2日制』自体が存在しないのだから、『プレ金』という官民一体の取り組み自体が、絵に描いた餅であり無意味ということになる。しかもこの『49パーセント』という数字は、正規雇用者に限った数字であり、非正規雇用者や個人事業者、経営者は母数に含まれていない。労働者の4割を占める程になった非正規雇用者からすれば、さらに倍加して『プレ金』など夢のまた夢であり、空理空論に過ぎないのである」

ダブルデートなんてできない

 昨年インターネット調査会社インテージが公表した統計によれば、首都圏における2000人超の労働者を調査したところ、「プレ金」の実施率はわずかに2・8パーセントで、その微々たる数も「プレ金」の旗振り役となった経団連参加企業などの一部大企業に限定されたという(2017年9月25日付、ビジネスジャーナル)。

 この「プレ金」の旗振り役となった世耕弘成経産相は、昨年2月時点では、自身のプレ金の過ごし方について、「カーリングを午後3時からやり、夕食は(妻と)経済人のご夫婦と一緒にダブルデートをしようと思っている」と語ったという。(2017年2月21日付、毎日新聞)

 なるほど、素敵な週末だと言えなくもない。が、古谷氏は厳しく批判する。

「『金曜日の午後3時からカーリングをした後、経済人のご夫婦と一緒にダブルデートをする特別な時間』を過ごすことのできる労働者は、いったいこの国にどのくらいいるのだろうか。

 世耕の感覚は、『外部から閉ざされた競争のない、閉鎖的な空間』の中に住まう人々の、典型的に浮世離れした感覚であると喝破するよりほかない。世耕が経済人のご夫婦とダブルデートができるのも、経産省に早期退庁を呼び掛けることができるのも、彼らが自由競争から隔絶された公務員の身分であるからこそである。

『プレ金』を理由に、『仕事を早引けします』と一方的に宣言し、法定通りの休暇を取ってタイムカードを押すことのできる労働者は、労働者の中でも特権的階級に限られている。『プレ金』はまるで自由競争を度外視した党中央のノルマだけが優先される共産国の労働者に与えられる『上からのスローガン』に思えて仕方がない。何のためにこんな無意味な官民連携のスローガンを打ち出すのか。競争を知らない『官』が、いかにも考えそうな実効性のない無意味な設計主義である」

撤退しない官僚

 現実とかけ離れた「プレ金」が早晩失敗と悟ったのか、「プレ金」実施から早くも半年を経過して、世耕経産相は2017年9月15日、「産業界や消費者の意見を聞きながら、見直すべきところがあれば見直したい」と述べた。これで終了かとも見られていたが、実際には今でもサイトが存続しており、経産省は諦めていない模様。経済アナリストの森永卓郎氏を引っ張り出して「プレミアムフライデーをもっと定着、拡充していくべきだ」と持論を述べさせているのだ。日頃安倍政権に厳しい森永氏までが応援してくれるのは、さぞ心強いことであろう。

 しかし、一度始めた以上、簡単には引かない――そんな官僚の姿勢が過去、様々な失敗、悲劇を生んだのは言うまでもない。

 古谷氏はこう皮肉っている。

「いやはや、私も『月末金曜日はプレミアムフライデーですので、原稿の送信はお休みにいたします』と編集者に言いたいものである。自由競争の社会では、そんな身勝手な連中は、すぐに干されて仕事など来なくなる」

デイリー新潮編集部