「インターナショナルスクール」理事長が“義務教育期間中は通わせるべきでない”と説く2つのワケ

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まずは日本の教育の再認識を

 坪谷さんに限らず、きちんとした理念をもって運営している経営者は、「インターナショナルスクール=バイリンガル教育」とみられる昨今の傾向を不満に思うところがあるようだ。

「興味深いデータをアメリカ国務省が公表しています。世界各国に駐在員を派遣するために、事前にその国の言語を日常会話レベルまで習得させる速習プログラムがありますが、英語に近い構造でアメリカ人が習得しやすい言語で、約480時間が必要だそうです。最も難しい言語に日本語も含まれ、最大で約2760時間必要です。ということは日本人が英語を学ぶのにも同じだけの時間が必要でしょう。私の経験則では、日本人がネイティブレベルの英語を身に付けるには、さらにその倍の時間が必要だと思います。そこまでして『グローバル人材』を育てるのは投資効果が悪すぎます。今後は自動翻訳機があれば、コミュニケーションツールとしての外国語は不要になります。もっとほかの学びに時間を割くべきです」

 国際的な教育団体からもお墨付きをもらっているグローバル教育の実践者・先駆者にこれを言われては、ぐうの音も出ない。

 坪谷さんは両手で大小の輪をつくりながら言う。

「日本人はこれくらいのことを、これくらいに小さく言う癖があります。謙虚とも言えますが、自己評価が低いとも言えます。アメリカはその逆。この程度のことを、こんなに大きく誇張する癖があります。どちらもダメです。私が育てたいのは、これくらいのことを、そのままこれくらいと言える子供たちです」

 日本の教育を卑下する前に、私たちはその優れた点を再認識する必要がありそうだ。そのうえで、「あれもやろう。これもやろう」ではなく、「これはやらない」と決めることも必要なのかもしれない。インターナショナルスクールを訪れて感じたことは、意外にもそういうことだったのである。

おおたとしまさ
育児・教育ジャーナリスト。1973年東京生まれ。麻布中高卒、東京外国語大中退、上智大卒。リクルートから独立後、教育誌等のデスクや監修を歴任。中高教員免許を持ち、私立小での教員経験もある。『ルポ塾歴社会』など著書多数。

週刊新潮 2018年7月19日号掲載

特別読物「『インターナショナルスクール』という秘境――おおたとしまさ(育児・教育ジャーナリスト)」より

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