カンヌ受賞作「万引き家族」に「クリーニング業界」から異論噴出のワケ

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パート用のアイロンは火傷しない

 さて、次のような文章は、どうお感じになられるだろうか。見出しは《「万引き家族」の演出〜クリーニング、負の象徴の歴史》というものだ。

《映画やテレビドラマの中で、クリーニングはいつの時代も「貧しい人々の職業」、「負の象徴」として描かれてきた。

 昭和27年の大ヒット映画「おかあさん(成瀬巳喜男監督)」では、戦後の貧しい庶民の代表としてクリーニング店が舞台となり、平成2年テレビドラマ「ひとつ屋根の下」では、貧しい兄弟が唐突に始める商売としてクリーニングが選ばれ、平成19年映画「しゃべれども しゃべれども」では、口べたで引っ込み思案のヒロイン(香里奈)を象徴する家業としてクリーニング店が描かれている。

 社会的事件としては、昭和57年、「夕暮れ族」が大きな話題となり、これを主催する筒見待子氏はバラエティなどに何度も出演したが、実態が売春組織であることが発覚、逮捕される。このとき、「父は上場企業の重役」と吹聴していた筒見氏は、実は「クリーニング業者の娘」とわかり、マスコミはことさらに「クリーニング屋」を強調して報道した。

 クリーニング業者への低い扱い、貧相なイメージは、私たちにとって不愉快であり、払拭したい課題ともいえるが、それにしても今回の「万引き家族」はあまりにひどい》

(※編集部註:原文中の名称を正式なものに改めるとともに改行を加えた)

 ちなみに「夕暮れ族」というのは現在で言う「パパ活」のサポートを謳う団体で、実態は単なる売春組織だった。

 それはさておき、この激烈な記事が掲載されたのはNPO法人クリーニング・カスタマーズサポートのホームページ。クリーニング業界のあちこちに拡散している。どうも『万引き家族』は一部のクリーニング屋さんから、相当に問題視されているらしい。

 記事は署名原稿で、筆者の名前は鈴木和幸氏。東北地方でクリーニング会社を経営し、『クリーニング業界の裏側』(緑風出版)などの著書も上梓している。

 他にもNPO法人クリーニング・カスタマーズサポートも運営。消費者に正しいクリーニング情報を、勤務者には適正な労働条件などを提供することで、業界の正常化を目指している。

 つまりはクリーニング業界きっての理論派というわけだ。では、どうして鈴木氏が、このような批判記事を書いたのか、取材を依頼した。

「映画は虚構でも、やはりリアリティは大事でしょう。安藤サクラさん(32)が演じる柴田信代はクリーニング店で働いていますが、アイロンによる火傷の跡があるという設定です。その傷跡が、虐待されている少女が心を開くきっかけになるという重要な役割を担っています。ところが残念なことに、クリーニング工場で使用されるアイロンは100度前後が設定温度です。あそこまで跡が残るほどの火傷はあり得ません」

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