文在寅政権がまた始めた「金賢姫」いじめ 朴槿恵より金正恩を評価する韓国の異常

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左派が保守派を大粛清

 これが現在に至るまでの経緯だが、「流れは分かったが、意味は理解できない」という日本人は少なくないだろう。もっと率直に言えば、金賢姫が遺族会を「北の手先」と糾弾して当然という気もしなくはない。

 それはともかく、現代朝鮮研究家で麗澤大学客員教授の西岡力氏は、金賢姫の遺族会に対する反論を翻訳して発表したこともある。今回のニュースには困惑しながらも、背景を解説してくれた。

「今のところ報道以上のことは耳に入っていないのですが、『昔の遺族会はこんな主張をすることはなかった』という話もあるようです。しかし我々日本人にとっては、金賢姫の供述により、北朝鮮で彼女に日本語を教えていた『李恩恵(リ・ウネ)』が浮上したという重要な事実があります。捜査の結果、拉致被害者である田口八重子さんの可能性が高いと判明しました。つまり、彼女は当事者でしか知り得ない『秘密の暴露』を、しかも非常にレベルの高い極秘情報を自供したわけです。彼女の証言の信憑性が高いことは、今さら言うまでもありません」

 背景にあるのが、韓国社会で進行する“革命”だ。朴槿恵(パク・クネ)・元大統領(66)の裁判が進行していることが最大の象徴だが、左派が保守派を“大粛清”している。

「近年、北朝鮮は韓国をターゲットにした工作活動に集中しています。『我々北朝鮮は戦前、日本帝国主義に対して抗日パルチザンを展開した。しかし韓国側は唯々諾々と植民地支配を受け入れていたではないか』と主張し、これに保守派は有効な反論を行えず、理論的に追い詰められていました。保守派は08年から17年にかけて李明博(イ・ミョンバク[76])と朴槿恵という2人の大統領を輩出して巻き返しを計りますが、韓国社会の左傾化を止めることはできませんでした。そして昨年に左派の文在寅(ムン・ジェイン[65])大統領が政権を奪取。李・朴元大統領の2人とも起訴される事態となり、保守派の劣勢が明らかになっています」(西岡氏)

北朝鮮から無防備となった韓国

 西岡氏が「革命」と形容するだけあり、韓国の世論には「朴槿恵より金正恩を評価する」という層が一定数存在するという。

「かつては保守と革新が拮抗していましたから、韓国の“歴史見直し”は強制連行や慰安婦といった戦前の問題に限られていました。しかし、文大統領の誕生による急速な左傾化で、戦後史も対象となりつつあります。昨年、光州事件を扱った韓国映画『タクシー運転手 約束は海を越えて』が大ヒットしました。保守派政権が自国民を虐殺するという構図で私も見ましたが、事実とは相当に異なるセンセーショナルな描写が目立ちました」(西岡氏)

 フィクションの世界なら、笑って済ませることもできる。だが、そうした風潮がリアルな国政にも影響を及ぼしているという。

「旧KCIA、現在の国家情報院の歴代責任者のうち、5人が検察の取り調べを受けているという異常事態が起きています。対北工作やスパイの取り締まり機能が大幅に低下しており、韓国の安全保障が脅かされる事態にまで発展しているのです。まさに革命です。ところが現在、北朝鮮に対する宥和政策は絶対的な正義ですから、世論は異議を唱えません。日本の外交政策にも影響が及ぶ可能性があり、予断を許さない状況です」(西岡氏)

 専門家の見識に耳を傾けても、やはり最後まで理解は難しい。だが、1つだけ明白なことがある。それは北朝鮮でも韓国でも、政治の極端な動きに金賢姫が翻弄され続けたということだ。

 確かに115人の尊い命を奪った極悪非道の犯罪者ではあっても、彼女は北朝鮮と韓国の被害者に違いない。

週刊新潮WEB取材班

2018年8月3日掲載

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