災害警戒区域がハゲ山に… 西日本豪雨が浮き彫りにする「太陽光エネルギー」という人災

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災害警戒区域をハゲ山に

 残念ながら、当時の菅総理たちは太陽光エネルギーが「藁」である可能性、すなわち負の側面には一切目を瞑った。菅氏にせよ、小泉純一郎元総理にせよ、いまなお「太陽光発電を増やせ」の一点張りで、藁にすがり続けるかのように、負の面が目に入らないらしいのは、不思議である。

 ともかく、現実にはすでに述べた愚策のせいで、危険は差し迫っている。

 今回の被災地の近くでも、大規模なメガソーラーの開発は目白押しだ。岡山県美作市の作東地区では、来年秋の稼働をめざし、東京ドーム87個分相当の約410ヘクタールの斜面が削られつつあり、住民は悲鳴を上げる。

「いま木を伐採して根を掘り起こしてるから、ちょっとの雨でもな、土が山から落ちて川が濁るんよ。完成したら土砂が大変なことになると思って反対しとったんやけど、土地を買われてしまうと、どうしようもないんやな。業者は下に流れ出んように3つ、ダム造るって言うけど、豪雨がきたらたちまち埋まってしまうんやて。木の根も掘り起こしてしまうけん、土がどんどん下に落ちるのは当たり前やな。発電所が完成して豪雨が来たら、山が崩れ落ちてしまうわ」

 また岡山市大井地区でも、東京ドーム39個分に当たる約186ヘクタールの森林を切り倒し、メガソーラーを設置する計画が進んでいる。この地区の連合町内会長の萱野英憲さんが懸念する。

「昨年2月に計画を知ったのですが、東京の業者が木を切ってハゲ山にし、27万6千枚もの太陽光パネルを設置するそうです。すでに土地の9割近くを取得したとか。平地には適当な場所が少なくなっていますが、パネル自体が安くなっているので、山林が狙われている。山を切り開く工事費を差し引いても儲かると考えているのでしょう。日本中あちこちで同じことが起きています」

 エコの旗印の下、防災より私企業の利潤が優先されているのである。

「今回、この辺りでも土石流が発生し、亡くなられた方もいます。計画地の直下流域は、多くの場所が土砂災害警戒区域です。専門の方に聞いても、開発予定地は真砂土という柔らかい土で、コナラなどが根を張ることで、なんとか地盤を支えているのだとか。だから今回の豪雨では、着工前なのに土砂崩れが起きた。それなのに広大な面積で木を切り倒せば、もっとひどい山崩れが起きそうで恐ろしい。県や市にも、 要望書や反対決議書などを提出していますが、岡山は県を挙げて“晴れの国おかやま”と謳って、太陽光発電を誘致していますから……」

“晴れの国”が土砂災害ののちの炎天下のことだとしたら、洒落にもならない。

 土木工学や防災工学を専門とする中央大学理工学部都市環境学科の山田正教授も言う。

「一般論として、山はそこに生えている木の根が表土を支え、斜面の表層の崩落や崩壊を抑え込んでいます。だから、木がなくなれば表面が滑り、土砂崩れは起こりやすくなります」

 もちろん、太陽光エネルギーに、こうした負の側面ばかりがあるわけではない。重要なのは藁にすがらないこと、すなわち冷静でいることである。

週刊新潮 2018年7月26日号掲載

特集「『西日本豪雨』暴虐の爪痕」より

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