桂歌丸さん逝去 笑点50周年で語った「最後は落語家として終わりたい」

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本当は仲が良い

 本気とも冗談ともつかぬやり取りに、多くの視聴者からは「2人を仲直りさせて欲しい」との声が寄せられた。それを受けて72年8月には番組で“手打ち式”を行っている。

「あの時は握手なんかもしたんだけど、最後はやっぱりケンカ別れでね。あくまで落語家同士のシャレみたいなものだし演出のひとつですよね。でも、あたしたちの掛け合いがあまりに面白いってんで、都内の寄席でも地方での落語会なんかでも、2人一緒に呼ばれる機会が増えました。

 こうなるともう、漫才コンビみたいなもんですよ。ある時、漫才コンビの『Wけんじ』のお二人がやって来て、『歌丸さんと小圓遊さんにはかなわねえ』って言われたこともあるくらい。

 だけど、本当は仲が良いもんだから、地方の駅なんかで2人で話をしてたりすると、それを見た人から『何だ、本当は仲良いんじゃねえか』って言われたこともありました。だから、『これから一緒に出掛ける時は、なるたけ離れて歩こうじゃねえか』って、ずいぶん気を使ったりしてましたよ」

 皮肉なことに、この大成功は歌丸師匠に落語家としての初心を取り戻させたという。

「小圓遊が悪口を言うと、あたしが箒を持って追いかけ回す。そんなドタバタも面白いんだけど、途中でハッと気がついたんだ。『こりゃいけねえ。これじゃ大喜利の歌丸だ。俺は落語家の歌丸なんだ』ってね。それからは、できるだけアイツから離れるようにして、掛け合いも控えるようにしたんです。

 あの時のことは、今でも覚えてますよ。久しぶりに高座に上がって落語をやったんですけど、これが全然ウケなかった。それで『これは違うぞ』って肌で感じたんです。小圓遊との掛け合いは楽しかったし、お客も大笑いするから気分も良い。だからか、寄席に出たって小圓遊との掛け合いでごまかしちゃうんだね。それで肝心の落語は全然やっていないんですから、お客にウケるわけがない。もうね、『小圓遊とやってないとお客のウケはこんなに違うのか、自分1人だとこんなものなのか』ってもの凄く不安になりましたよ」

「落語家として終わりたい」

 心を入れ替えた歌丸師匠はできる限り落語に力を注いできたという。その歌丸師匠は4月30日に番組からの引退を発表。5月22日の放送で勇退し、「終身名誉司会」に就任する。

「『笑点』がずっと守ってきたのは、出演者がみんな同格ということ。楽屋に先輩後輩はあるけども、舞台に上がれば全員同格。先輩だからって遠慮なんかしてたら、面白くなるものもならなくなるでしょ。自由にやっているうちに政治ネタが得意とか、下ネタが好きとかいう役回りが定着していった。それが番組が50年も続いている秘訣というのかな。一種の『和』と言えるかもしれません」

 歌丸師匠は、ご自身と番組に大きな人気が集まったことに「本当にありがたいこと」と謝意を示しつつ、「笑点の歌丸とか、大喜利の歌丸では終わりたくない」と話す。

「あたしは落語家ですから、最後は落語家として終わりたい。と言ってもまだまだやりたいことはたくさんあります。今年8月には国立演芸場の中席(中旬の公演)で、(三遊亭)圓朝師匠の『江島屋怪談』をやる予定です。

 これからは『笑点の歌丸』以外の姿も、見たり聞いたり楽しんで欲しいですね」

週刊新潮 2016年5月19日菖蒲月増大号掲載

「特別読物 『笑点』50年!『桂歌丸』誌上独演会」より

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