超早期発見と最新免疫療法 「ノーベル賞に最も近い異端児」が切り拓く「がんゲノム医療」

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がんの“敵”対“味方”

 リキッドバイオプシーが、がんに対する「先手必勝」を期待できる一方で、既にがんと闘っている最中の患者の「救える命」を増やすことができる、と中村が期待を寄せるのが、「ネオアンチゲン療法」だ。

 東大先端科学技術研究センター教授の油谷浩幸が解説する。

「ネオアンチゲン療法は免疫療法の一種です。免疫細胞のリンパ球(T細胞)は、がん細胞に生じた遺伝子変異に由来する抗原(ネオアンチゲン)を目印にしてがん細胞を攻撃します。そのネオアンチゲンをぺプチドワクチンなどの形で投与することで、T細胞の活動を特異的に活発化させてがん細胞を殺す。つまりがん細胞を手術で除去したり、抗がん剤で抑えたりするのではなく、がん細胞に対する免疫を活性化させることでがん細胞を消滅させるという療法です」

 中村が後を受け、例をあげながら説明する。

「感染したインフルエンザウィルスなどが消滅するのは身体のなかでリンパ球や抗体がつくられてウィルスを攻撃するから。それと同じ原理で、我々の身体のなかには生来、がんを攻撃するリンパ球があるので、それらを人為的に増殖させて、がん細胞を破裂させていくというのがこの療法の基本的な考え方です」

 免疫療法――。ご存知のように、免疫を高めることをうたい、高額な治療費を請求する怪しげなクリニックが問題となっているが、中村曰く、ネオアンチゲン療法はそのような「白衣を着た詐欺師」が施すものとは一線を画するものだ。

「“がん”といってもその組織のなかには、がん細胞だけではなく、がんを攻撃する免疫細胞(リンパ球=がんの“敵”)やがんを守ろうとする免疫抑制細胞(がんの“味方”)などいろいろな物質がある。14年に新薬として注目された『オプジーボ』は、がんを守る分子の働きを抑えることで、がんを攻撃する免疫細胞を優位に立たせようという薬。しかし、いくらがんを守る分子を減らしても、免疫細胞が少ない場合、どうしてもがんが勝ってしまう。オプジーボが1〜3割の人にしか効果がないといわれている理由は、リンパ球の数の問題なのです」

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