日本人を腑抜けバカにする「視聴率民主主義」(中川淳一郎)

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「視聴率民主主義」という言葉をふと思いつきました。テレビが扱うものによって、世の中の怒りや称賛の空気は作られる、ということです。テレビは、視聴率が取れると判断できたらその話題を連日のように流し続ける。日テレ、TBS、フジ、テレ朝の朝と午後の情報番組は、同じ話題だらけになります。

 人間、テレビで何度も見たものを最重要案件だと思い込んでしまいがちです。最近では「モリカケ問題」「日大悪質タックル」「紀州のドン・ファン」がありました。

「まだやってるのかよ!」なんて口に出しながらも、だらだらと見続け、これらのテーマに妙に詳しくなってしまう。詳しくなるのは案外危険で、善悪の判断をテレビに委ねてしまうことになるんですよね。

 日大の件では、「日大のオッサンは悪い」「関学のオッサンはエライ」「タックルして会見をした選手は立派」「日大という組織はクソ組織かつゼニゲバ」といったイメージもつきました。

 現実に発生しているできごとも、勧善懲悪の「水戸黄門」のごとく裁いてしまうのがテレビの持つ破壊力です。キャラ立ちした人物ばかりが何度も取り上げられ、善玉と悪玉に分けられる。視聴者の人生や教養にとって重要かという観点はなく、とにかく面白い人が出続け、社会の空気を作ってしまうのです。その人物を社会的に抹殺することも厭わない。「近年のテレビを彩ったスター七人衆」を振り返ってみましょうか。

(1)「社員は悪くありません!」で号泣の山一證券・野澤正平元社長(2)「私は寝てないんだ!」と逆ギレの雪印乳業・石川哲郎元社長(3)“ささやき女将”こと船場吉兆・湯木佐知子氏(4)布団を叩きながら「引っ越し、引っ越し、今すぐ引っ越し、しばくぞ!」と叫ぶ“騒音おばさん”(5)「世の中をガエダィ!」、“号泣県議”・野々村竜太郎氏(6)「STAP細胞はありま~す!」小保方晴子氏(7)現代のベートーベン、ゴーストライター騒動の佐村河内守氏

 さすがに山一と雪印ほどの重大案件は大きく取り上げる必要がありますが、結局「野澤氏の号泣」「キレる石川氏」ということしか覚えていない人が大半なのではないでしょうか。その他については、いずれもあそこまで取り上げるべき話題ではない。

 恐ろしいのは、テレビは政治についても「面白い人かどうか」「視聴率が取れるか」という観点で放送することがあまりにも多く、「劇場型」にしてしまう点です。

 過去の選挙でいえば、2005年の「郵政選挙」、09年の「政権交代」、そして16年の「小池百合子旋風都知事選」、17年の「都民ファーストの会旋風都議選」ですかね。これらの結果は毎日のテレビが作る空気通りでした。つーか、都知事選や都議選なんて全国放送する必要ないでしょうよ?

 選挙の応援も同様です。蓮舫氏や小泉進次郎氏みたいな仕事できる風美男美女がテレビに登場しまくり全国的知名度を獲得したら、選挙応援人として全国行脚をする。有権者も「テレビで見るよりイケメン/美女よねぇ~」なんて本人に言ったりして、完全にスター扱いです。

「視聴率民主主義」、けっこう日本人を腑抜けバカにしていると思います。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんしゅうきつこ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2018年6月28日号掲載

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