東大・IBMの「ワトソン」のビッグデータが読み解く「がん遺伝子」 AIが切り拓くがん治療の最先端

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銀行に預ける感覚

 ある大腸がん患者の場合は、1年かかった全ゲノム解析を30分でやってのけたこともあった。むろん全てのケースに対応できているわけでは決してなく、

「AIへのビッグデータの蓄積がまだまだ足りません。米国のように、国民参加型の医療体制を整え、誰もが銀行にお金を預けて利用するような感覚で、自由に使えるゲノムデータセンターなどの体制づくりが急務です。費用は膨大にかかりますが、効果的ながん治療が確立すれば、国の医療費削減にも繋がります」(同)

 今春、厚労省はがんに特化したゲノム医療を本格化させると発表し、国内11中核拠点と100病院を指定、来年4月の保険適用を目指すと啖呵を切ったものの、

「実際、現場にAIを導入するのにかかるお金の概算はいくらか、何処から予算が出るのか、曖昧なまま進んでいるので不安ですね」

 とは、京都大学大学院医学研究科の奥野恭史教授だ。

「私たちの開発しているAIシステムは、国からの予算が入った『AMED』という、日本人の疾患ゲノムを集める専門組織からデータを提供して貰っています。『和製ワトソン』といわれることもありますが、確かにIBMのAIは欧米人のゲノムパターンが中心。我々は日本人に特化したゲノムデータを学習させ、チューンナップします。同時に、この変異にはどの薬が効くのか、という判断の根拠も合わせて示す機能をつける。本来、効くかどうか分からない薬を、人に投与するわけにはいきません。ですからがん治療の現場では、未だに手探りの状態が続いているのです」

 ゲノム医療に年間260億円も予算をつぎ込む米国や、全国民のゲノム解析を終えたと謳う中国の後塵を拝するニッポン。超える壁は数あれど、叡智をもった人々がAIと手を組むことで、「がん治療」の最前線は、大きく変貌を遂げようとしているのだ。

週刊新潮 2018年5月31日号掲載

特集「『AI&ゲノム』が一変させる『がん治療』の最前線」より

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