シェアハウス今昔事情 「新しい親戚」需要アリ(古市憲寿)

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 10年ほど前から、若者たちの新しい居住形態としてシェアハウスが注目されている。正確にいえば、昭和の木賃アパートなど、若者の共同生活は昔から存在した。1968年の建設省調査によると、共同住宅のうち専用風呂付きは5%、専用トイレ付きは22%しか存在しなかったという。つまり多くの若者はシェアを当たり前にしていたのだ。

 状況が変わったのは、1980年代のワンルームマンションブームから。「財テク」ブームの折り、手軽な不動産投資の対象としてワンルームは最適だった。生まれた時から個室が当たり前になった世代からもワンルームは好まれた。

 しかし都心の一人暮らしは、窮屈なのに高価だ。そこで脚光を浴びたのがシェアハウスだった。リビングやバスルームを共有する生活ならば、同じ家賃でもっとレベルの高い場所に住めるというわけだ。

 意識の高い人々もこの流行を煽った。多様な人々が一緒に住むことで生まれるつながりが、個人の生活を豊かにするばかりではなく、新しいビジネスアイディアが生まれる、といった具合だ。そういえば、「シェア」や「ノマド」といった価値観を高らかに謳い上げる安藤美冬さんっていたな……。

 しかし実際のシェアハウスは、それほど素敵なものではなかった。2014年に国土交通省が発表した調査によると、居住者がシェアを選んだ最大の理由は「家賃が安いから」。そこに「立地が良い」「即入居が可能」と続く。「コンセプトが気に入った」「イベントなどが楽しそう」と答えた人は1割程度に過ぎない。

 特に窓のない狭小ハウスに住む人の約半数は月収が15万円以下だった。リベラル風にいえば、シェアハウスは貧困の温床だったのだ。

 しかしそのシェアハウスも減少傾向にあるという。この数年で都心の景気が回復し、住宅事情も改善したからだ。結局多くの人は、好んで知らない人となんて住みたくなかったわけである。

 それでもシェアハウスには一定の需要はあり続けるだろう。旧来の常識では、シェアは若者だけがするもので、結婚や育児を契機に独立していく人が多いと考えられていた。

 だが僕の周りには、子どもを産んでもシェアハウスに住み続ける人が一定数いる。ワンオペ育児が問題になる昨今、子育てにはむしろいい環境だという。そこでの住人は「新しい親戚」のようなイメージだ。

 友人は、家族と違って何ら法的に保証される関係ではない。友だちには、婚姻届も、パートナーシップ証明書も必要ない代わりに、気が合わなくなったらそれまでだ。しかし、友人関係とは得てして、複数同時に結ばれるもの。初めは一対一で仲良くなっても、次第に双方がその友人を紹介していくからだ。つまり、誰か友人と別れようと思ったら、そのコミュニティごと切り捨てる必要がある。しかしそれは時に親と絶縁するよりも難しい。シェアハウスに住まなくても、うっかりすると友人関係は親戚のようになってしまうのだ。

古市憲寿(ふるいち・のりとし)
1985(昭和60)年東京都生まれ。社会学者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。日本学術振興会「育志賞」受賞。若者の生態を的確に描出し、クールに擁護した『絶望の国の幸福な若者たち』で注目される。著書に『だから日本はズレている』『保育園義務教育化』など。

週刊新潮 2018年5月31日号掲載

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