尿から読み解く「大腸がん」の分子 AIが切り拓くがん治療の最先端

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医師とAIを比較してみると

 せっかく検査したのにがんになる。そんな患者たちの実態が、アメリカでは統計化されているという。

「報告によれば、大腸がんの手術をした患者の6%は、過去3年以内に内視鏡検査を受けていました。にもかかわらず、なぜがんを発症したのか。その原因を探ると、内視鏡検査の際に見逃されていた例が最も多く、これが6割にも上るのです。特に右側結腸に存在する病変や、小さかったり平らな病変は見逃しやすい。私自身、内視鏡検査で見逃してしまったことがあるのですが、やはりモニターに映っていても人間だけでは識別が困難だったり、経験を積んだ医師でないと判別しづらい。そこで、検査の際にAIが医師をサポートできないかと考えたのです」

 と振り返る山田氏らのチームは、はじめに大腸がんや、その前段階にあたる病変約5000例を含む約14万枚の内視鏡画像をAIに読み込ませたという。

 その結果、AIは「ディープ・ラーニング(深層学習)」、つまりデータから病変の特徴を抽出し、その傾向を学習してくれる。最終的には、病変の位置と大きさを判別し、人間に教えてくれるまでに成長したのだ。

 このシステムは昨年7月に発表されたが、環境が整い次第、臨床研究に進みたいと言う山田氏によれば、

「一番のポイントは、実際の検査時に人間が意識を向けるべきポイントを、AIが教えてくれることですね。AIが指摘して人間がチェックする。2つの段階を踏むことで、見落とすリスクを防ぐ効果が期待できます。結果的には医師の能力差を解消でき、いわば医療の均てん化に結びつく効果も期待できると思います」

 研究段階という前提がつくが、このシステムでは誰でも分かるようなポリープについては98%、見つけづらい「平たい病変」についても94%の検知を可能にした。この数値がどう評価できるのか。実際に同じ画像を使ってAIと医師がそれぞれ検査をしたところ、

「12人の医師に手伝ってもらったのですが、彼らは専門医や熟練医から経験の浅い医師まで様々でして。忙しい中、無給で手伝ってくれたのですが、“残念な結果”が出てしまいました……」

 と山田氏はため息を吐く。比較すれば、病変があると判断する能力(感度)は、経験の浅い医師が87%、AIは97%。病変なしと判断する能力(特異度)は、専門医が96%で、AIはなんと99%だったというのだ。

「本当は医師とAIを比較するのではなく、AIを使った医師と使っていない医師を比べるべきでした。医師とAIが共に考えるためのシステムですから、AIと医師の能力を比較するのはちょっとズレている。けれど、間違いなく言えるのは、AIは絶対に活用した方がいいということ。決してAIに任せきりにする、という意味ではなく、人間がAIをうまく使っていけば、必ず“見逃し”を減らすことができます」(同)

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