ギョーカイ人が好きな「代々木上原」がイケ好かない(中川淳一郎)

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 マスコミ系やアパレル系のいわゆる「ギョーカイ人」が好きな街というのは、イケ好かないこともありますが、それの決定打とも言える街をこの度発見しました。発見したというか、もう15年ほど通い毎度モヤモヤしていたのですが、遂に諦めました。

 その街は代々木上原。小田急線の急行が停まり、千代田線の終点に位置するこの街はネットの記事の「感度の高い大人の街!代々木上原の通いつめたくなるグルメ17選」にも見られるように、基本的には「ハイソ」「大人」「おしゃれ」「上品」「隠れ家的」といった言葉で表現されます。

 地元住民が優雅なブランチをカフェで食べているかと思えば、ネットの口コミ等で知った評判の居酒屋やらカフェ、バーを求めてわざわざ遠くからやってくる人もいる。

 グルメ雑誌やタウン情報誌等が殊更にこの20年ほど代々木上原をホメたという理由もあるのでしょうが、実際にこの街で過ごしてみるとさほど居心地が良くない。私の事務所は隣の代々木八幡にあるため、時々上原にも行くのですが、「あぁ、八幡の店にしておけば良かった」と思うことは何度もありました。

 しかしながら世間的にイメージの良い上原を開拓したい気持ちもあって行くものの毎度撃沈される。店の数がそれほど多くないので業種さえ出すのはやめますが、過去に飲食店で体験したことをいくつか書きます。

(1)オーダーを忘れても平然としている(2)大混雑なのにホール担当が1人しかおらず、店内には「すいませーん」がこだま(3)調理場の料理人が皿に盛りつけている時に咳をする(4)ただただマズい(そのジャンルはこの街に1軒)(5)ビールを何本も頼んでいたら料理人のジジイが「ビールばかり飲みやがって」と舌打ち(騒いでいるわけではない)(6)なぜか会計が毎度想定より1人1000円ずつ高い(7)「あと10分で席が空きます」と言うのに30分空かない(8)待ち合わせ相手がいるかと思い入ったら、「ラストオーダーは終わってます! 入らないでください!」と怒鳴られ外に出される。

 この他にも色々ありますが、猛烈にヒドかったのが、生ビールを頼んだら怪しい滓が沈殿し、ビール全体が濁ってすっぱい。妙な地ビールだなァ……なんて思ったら大メーカーの生ビールの樽がありました。ワインがメインの店なのでビールはあまり注文されず古くなったのでしょう。だったら瓶でいいのに。

 そういえば、事務所を借りる時もそうだった。上原の不動産屋で「2部屋あって予算は11万円」と伝えたら「上原は高級住宅街だし急行も停まるのでそんなのは無理! 隣の八幡にでも行きなさい!」とババアに言われ、八幡に行ったら「そんなこと言われたの。かわいそうねぇ……」と美人中年従業員が親身になってくれ、条件通りの物件を発見。そこを借りたところ年収が毎年上がることに! 

「この街はセンスがいい」というイメージが定着すると、批判が許されない状況になって訪れる人の評価が甘くなり、街を形作る人々がゴーマンになったり弛緩してしまうのかもしれません。人間や会社にも当てはまることなので兜の緒を締め謙虚に生きたいものです。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんしゅうきつこ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2018年5月17日号掲載

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