心が折れない「平尾脱獄囚」のサバイバル “衣食住”揃った島環境

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“車をお借りします”

「食」に加えて、「衣」「住」についても、島内には、空き家が1000軒以上もあるのは既に報じられている通り。

 こうした空き家には、

「住民が残していった布団や毛布、衣類があることも多い。すると、暖を取ることも出来る」(同)

 と言うから、なるほど、10日間のサバイバル逃亡も頷ける環境だったというワケなのだ。

「この辺りは、泥棒なんてほとんど出ないから、いつも鍵をかけないで寝ている。それが悪かった……」

 と語るのは、平尾と思われる窃盗犯の被害に遭った、地元の男性住民である。

「様子がおかしいことに気付いたのは、逃亡翌日、4月9日の朝でした。家の中から、車の鍵とケータイ、それにポシェットの中の手帳とペンが無くなっていたんです。今考えると、寝室の手前まで入られていたわけですから、“怖いな”とゾッとします」

 平尾はこの男性の車も盗もうと試みたようで、付近には「車をお借りします。傷はつけません」と記されたメモが残されていた。が、結局、車はそのままだったという。

 男性が続ける。

「家の前の道がとても細く、慣れていないと無理だと諦めたのかもしれません。しかし、不思議だったのは、わざわざ丁寧にメモを残したこと。そしてそのメモの字がとても丁寧で、綺麗だったこと。それに、中身が盗まれたポシェットもきちんと丁寧に置かれていたんです」

 そして、こんな感想を漏らすのだ。

「それを見て、複雑な心境なんですよ。盗まれた私が言うのも変ですが、彼はそこまで悪い人じゃないような気もしてきて……」

 もちろん悪い人に決まっているが、ともあれ、逃走に傾けたこれだけの努力を、なぜあと2年頑張れば終わった刑務所生活には向けなかったのか。

 返す返すも愚かである。

週刊新潮 2018年4月26日号掲載

特集「サヤエンドウとはっさく…… 心が折れない『脱獄囚』のサバイバル」より

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