隠された「順天堂」新生児取り違え 父母は“生まれるはずのない血液型”めぐり離婚

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闇に葬られた順天堂「新生児取り違え事件」(上)

 家族から引き剥がされ、見知らぬ国での生存を強いられた拉致被害者の苦悩は想像を絶するが、それと本質的に同じだろう。被害者は血縁のない家族に育てられ、冷遇され、だが、その原因が自らの新生児取り違えだと認めた名門病院は、過誤をカネで隠蔽していた。

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 子供のころ、親から「お前は橋の下で拾ってきた子だよ」と言われ、ドキッとした経験をもつ人もいると思う。自分は本当にこの両親から生まれたのだろうか、と。むろん、親がそんな冗談を言えるのも、自分の子だと確信しているからだろうが、なかには親の発言がトラウマになり、密かに悩み続けるケースも少なくないという。

 しかし、親子の間に血のつながりが本当になく、なにかをきっかけにそのことを知ってしまったら、子供、そして家族の苦悩は想像するに余りある。福山雅治が主演した2013年の「そして父になる」にせよ、先月まで日本テレビ系で放映された「もみ消して冬」にせよ、新生児取り違えを題材にした映画やドラマが多いのも、事態があまりに劇的だからであろう。

 現実とかけ離れた話をしている、と思うなかれ。新生児取り違えは、フィクションの世界にかぎった事件ではない。日本でもたびたび実例が報告されている。

 たとえば2013年には、1953年に別の赤ん坊と取り違えられていたことがわかった男性が、2億5000万円の賠償を求めて病院を提訴し、3800万円の賠償金を得ている。この男性は誤って引き取られた家庭で極貧生活を強いられ、中学を卒業すると町工場で働かざるをえず、辛うじて定時制高校を卒業し、トラック運転手をするなどして糊口を凌いできた。しかし、実の両親には経済的なゆとりがあり、誤って引き取られた子をふくめ兄弟4人が、私立高校から大学や大学院に進んだという。

 また06年には、58年に都立墨田産院で取り違えられたという、当時47歳の男性が都を訴え、勝訴している。だが、産院がすでに閉鎖されていたこともあって当時の資料が乏しく、この男性は実の親を探し出すにはいたらなかった。

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