難治「すい臓がん」治療の最前線 三次元放射線ビーム、早期発見“尾道方式”

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10億円で導入した「三次元放射線ビーム」

 すい臓がんを抑えこむ治療法は、抗がん剤だけではない。最近では新しい放射線機器による治療の試みも始まっている。

 もともと放射線治療は、手術と遜色のない実績があり、抗がん剤のような副作用が少ない治療法だ。だが、放射線治療には得意な臓器とそうでないものがある。呼吸や蠕動(ぜんどう)で動いてしまう臓器は、照射中にずれてしまうために、不向きとされてきたのだ。また、腸は放射線に弱く、間違って当てると穴を開けてしまう。すい臓も十二指腸の蠕動に合わせて2センチほど上下に動いてしまうため、これまで放射線治療が不得意な臓器のひとつだった。

 ところが、国立がん研究センター中央病院が昨年5月に導入した最新型の放射線治療装置は、これまでのものとは全く違う。すい臓のように「動く標的」でも照射できるのだ。

 同病院放射線治療科長の伊丹純医師が言う。

「これは、アメリカのビューレイ社が開発した『メリディアン』という放射線治療装置で、MRI(磁気共鳴画像装置)と放射線治療機を1台に組み合わせたものです。最大の特徴は三次元画像でがんと周辺の臓器の様子まで捕捉しながら、ピンポイントで放射線を当てることができること。具体的にはターゲットのがん部位をモニター画面でマーキングしておき、2つの画像が重なった瞬間に自動照射するというものです」

 言うなれば、これまでの放射線治療装置は散弾銃を撃つようなもの。一方、メリディアンはスナイパーが照準器付きのライフルで狙い撃ちするのに似ている。これで1台1000万ドルである。

 で、効果のほどだが、

「メリディアンが使えるのは、(遠隔転移しておらず)すい臓内に留まっているがんで、全体の約3割の患者さんが対象です。当病院で治療を行っている8例のうち、すい臓がんはまだ1例ですが、ステージIIIの患者さんに5回照射しただけで、この7カ月間、がんの増殖を完全に封じ込めることに成功している。また、協力関係にあるアムステルダムの病院ではステージIIIの患者さんの42症例すべてに改善が見られました」(同)

 メリディアンは、現在、保険が利かないため、5〜8回の治療に、210万円かかる。

「しかし、現在、世界の9つの医療機関で治験を行っており、結果次第では、数年で保険適用になる可能性があります」(同)

 伊丹医師によると、当面は、ステージIIIまでのすい臓がんをメリディアンで小さくしたうえで手術するという使い方を考えている。また、将来的には抗がん剤との併用で手術をせずに根治できる可能性もある。難治のがんに、ようやく光明が差し始めているのだ。

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