習近平がいよいよ皇帝に? 「終身国家主席」目指すわけ

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 3月5日から始まった、中国の全国人民代表大会(日本の国会にあたる)で、国家主席の任期撤廃の憲法改正案が提出された。かつて毛沢東の独裁を招き、文化大革命で国中が大混乱に陥った反省から、国家主席、副主席の任期は2期までと決められたのだが、その縛りがなくなるということになる。すでに中央軍事委員会の主席でもある習近平。軍も手にした終身最高権力者となれば、まさに「皇帝」の誕生だ。

 21世紀のこの時代に、まさか本気で「皇帝」に? だが、習近平の性格から考えればありえると指摘するのは、『習近平と永楽帝』の著書がある山本秀也氏(産経新聞編集委員兼論説委員)だ。その野心を理解するためには、彼のハングリーな生い立ちを知る必要があるという。

「習近平は国家幹部だった父の失脚に伴い、幼少期より受難の歳月を過ごしています。15歳からは農村に下放され、シラミや虫だらけの横穴式住居に住み、食料は配給のトウモロコシなど穀類が主で、数カ月ぶりにわずかな豚肉の配給にありついた時には、たまらずに生のまま食べたほどだったとか。母と弟が送られた強制労働キャンプを訪れた際、牛馬のようにこき使われる母親の姿を見て『家族のために俺はやってやる』と叫んだそうです」

 その後、農作業の働きぶりが認められて、共産党に入党、大学入学の推薦を獲得したものの、そこはそもそも普通の学問をする場ではなかった。

 習近平の世代では、中学ですでに通常の授業は停止し、紅衛兵運動で荒れていた。学ぶのはもっぱら赤いビニール表紙の毛沢東語録ばかり。

 この傾向は大学でも同様だった。

「大学は学力ではなく政治性、階級制を重視した推薦での入学。名門の清華大学といえど1976年の文革終了をはさんでなお、正規の教育レベルとはかけ離れた授業しか行われていなかった」(山本氏)

 客観的に見れば、習近平が大国の指導者としての教養や常識を学ぶような教育を受ける機会を逸したのは、毛沢東のせいだろう。しかし、習近平が理想の指導者像として考えているのが、この毛沢東なのである。毛沢東もまた、教養面では疑問視される人物だ。

「マルクス・レーニン主義の主要文献をちゃんと自分で読んで理解していたのかは疑問視される一方で、『明史』を含む中国の歴史書にはよく通じていました」(同)

 明朝といえば皇帝への権力集中が進み、特務機関による恐怖政治や思想統制なども形成された時代である。それは様々な意味で現代中国の礎となった。

 山本氏は同書で、習近平の前近代的な「中華権威主義」を読み解く鍵として、明朝3代皇帝・永楽帝と比較。甥を殺して帝位についた永楽帝もまた、その正統性を証明するために、通常以上の政治実績を求められ、海外進出を続け、苛烈な政敵排除と国内統制を行った。

 習近平のモデルが毛沢東や明朝の皇帝だと考えれば、今回の「終身国家主席」への動きもわかりやすい、と山本氏は指摘する。

「習近平が、かつて仰ぎ見た毛沢東なみの権力を躍起になって手にしようとしていると考えれば、その行動を理解することは容易です」

 文化大革命によって中国国内では千万単位の死者が出たとも言われる。現代の皇帝のもと、中国はどうなっていくのか。日本にとっては他人事ではないのは言うまでもない。

デイリー新潮編集部

2018年3月12日掲載

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