日本の子ども、7人に1人が貧困  増える高校生ワーキングプアの実態

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 子どもの7人に1人が相対的貧困の状態にある日本。それを聞いても「そんなにいるのか」と疑念の声を上げる人もいるだろう。もちろん貧困とは言ってもアフリカの国々のような絶対的な貧困ではなく、全国民の所得の中での相対的な貧困であり、だからこそ見えにくい。しかし、この相対的貧困こそ、先進諸国で問題となっている現代の貧困なのだと指摘するのは、10年以上に亘り貧困の実像を取材し、放送してきたNHKスペシャルの取材班だ。
「相対的貧困」とは、その社会において当たり前とされる生活をするのが困難な生活水準に置かれた状態のことを指す。子どもの生活にたとえれば、友達と遊んだり、学校に行ったり、家族と休日に出かけたりといった、ごく当たり前のことができていない状態である。
 そんな状態に置かれた結果、家計を支えたり、自分の進学費用を貯めるためにアルバイトをせざるを得ない「高校生ワーキングプア」が増えているという。(以下、『高校生ワーキングプア 「見えない貧困」の真実』より引用)

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 国の調査では、児童のいる世帯の30%が「生活が大変苦しい」と回答、「やや苦しい」も合わせると、63・5%が「生活が苦しい」と訴えている(2017年「国民生活基礎調査」)。
 とりわけ義務教育から高等教育へ移行する時期、つまり高校へ進学するとき、家計はさらに苦しくなりがちだ。国の調査では、高校生の半数がアルバイトを経験するようになっていて、もはや、「高校生のアルバイト」は、家計のためになくてはならないものになりつつある。

 高校生ワーキングプアの取材で出会った生徒たちは、そのほとんどが「家族のため」に働いている。自分の進学費用のため、と答えた生徒でも、よくよく聞いてみると、「親にこれ以上負担をかけたくない」など、家族への思いが彼らを支えていることが分かる。

お母さんのため

 働く高校生の現実をデータで裏付けるために、生徒たちへの調査を行いたい──私たちが取材の現場に選んだのは、千葉県内のとある公立高校だった。

 校長先生は私たちの取材にこう説明した。「全校生徒のうち、ひとり親家庭は2割から3割いるし、生活保護を受けている家庭も一定数います。しかし、教師ですら、その子が経済的に困っているかどうか、普段、接しているだけでは分からないんです」

 取材に訪れていた時、教室でひと際大きな笑い声を響かせていたのが、高校2年生の絵里香さん(仮名)だった。
 スマートフォンで気になるタレントの動画を見て、友達とはしゃいでいる絵里香さんは、いつも友達の輪の中心にいる、明るく闊達(かったつ)な女子高生だった。原宿などで見かけるような、流行の可愛いモノが大好きだという、ごく普通の女の子だ。

 絵里香さんがアルバイトを始めたのは、高校1年生のときだ。母親に迷惑をかけないために、中学生の頃から「高校生になったらアルバイトをしよう」と決めていたという。そのため、高校へ進学すると、アルバイトに専念するため、中学で3年間続けていた部活もやめてしまった。
 絵里香さんがアルバイトしているのは、駅近くにある飲食店だ。朝早くから、モーニングを食べに来る常連客でにぎわっている。絵里香さんも顔なじみの常連客とは笑顔で会話を交わしながら慣れた様子で接客していた。そして、きびきびと注文をとり、すぐに厨房に伝える。教室で見せる姿より、少し大人びて見え、頼もしくも感じる。
 アルバイト代を何に使っているのか、内訳を聞くと、友達との交際費のほかに、交通費、食事代、洋服代といった生活費は、すべて自分でまかなっている。もちろん、親からのお小遣いはもらわずにやりくりしているため、いつも節約のことを考えているという。

 絵里香さんが必死に働く理由は、自分の生活費のためだけではなく、もうひとつ大きな理由があると、ある日、打ち明けてくれた。
「お母さんに言っていないんですけど……私、専門学校に行きたいんです」
 母親に打ち明けられない理由は、お金のことで心配をかけたくないからだった。
「お母さんは就職するものだと思っている。専門学校に行くと言えば、お金がかかるから無理と言われるかもしれないし、金銭的負担をかけてしまうかもしれない。でも、まだあきらめたくなくて、まず自分にできることは貯金なのかなって」
 絵里香さんは、母親に進学させる経済的余裕がないことも知っているし、できれば就職して欲しいと願っていることも知っていた。だからこそ、進学したいという本音を親に伝えられずにいた。

 飲食店とコンビニのアルバイトを掛け持ちしている絵里香さんの仕事終わりは、遅い日だと午後10時過ぎになる。密着ロケの最後、ようやく帰路についた絵里香さんに、どうしてこんなに働くのか、聞いてみた。
「お母さんのため」
 すぐに、その言葉が返ってきた。親を思う気持ちの強さに圧倒された。そして、彼女はこう続けた。
「自分の生活費を自分で稼げば、お母さんが楽になるから」
 これから帰っても、疲れて勉強をするどころではないだろう。絵里香さんの休日は、働いて、それだけで終わってしまった。別れ際、彼女は私たちに笑顔で手を振りながら、こう言うと、背を向けて帰っていった。
「お風呂に入って寝ます。ばたんってすぐに倒れちゃうと思う」

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 絵里香さんのように、一見、生活に困っているようには全く見えない高校生たちが、実はアルバイトをして、親の収入だけでは足りない家計を支えている実態は確実に広がっている。外見上「貧困には見えない」からこそ、声なき声に耳を澄ませ、自分の未来に不安を感じることなく成長していくことができる“権利”を子どもたちに与えられる社会を、皆で作るべきなのではないだろうか。

デイリー新潮編集部

2018年2月26日掲載

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