誰も知らない「自衛隊」南スーダンPKOの最前線 タバコも酒ものむ“生身の隊員”報告

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ニーズと「危険性」は別

 17年5月30日。帰国した第11次要員は、東京・市ヶ谷の防衛省にて隊旗返還式に臨んだ。これを以て、施設部隊のPKO活動としては最も長期にわたる5年4カ月の南スーダン派遣は終了した。施設活動では約260キロに及ぶ道路補修、約50万平方メートルの用地造成、さらにコンテナの設置など97カ所の施設構築という実績を残した。

「PKO派遣の経験は人生の宝です」

 と中力1佐は言う。

「国連では各国の部隊が協力し合う。私たちは陸上自衛隊として日本国の看板を背負って現地に赴くわけですが、派遣先では国連部隊の一員。そこでは中国とさえ同じ目標に向かって活動することができました」

 政府は今後も能力構築支援の強化や部隊派遣など、国際平和協力分野において貢献していく考えを明らかにしている。自衛隊の持つ技術力は、国際社会のニーズも高い。

 一方、技術力やニーズと、「危険性」はまた別モノである。国会でいくら戦闘を「武力衝突」と言い換えたところで、戦闘が生起した現実が変わるわけではない。また第11次要員では、平和安全法制に基づき「駆け付け警護」「宿営地共同防護」という新任務が付与されていたが、幸か不幸か彼らがその任務を実施することはなかった。新法制によってある局面での武器使用が法的に訴追される懸念がなくなったものの、現場のリスクが軽減されたわけではない。

 現憲法下における「戦力」未満の自衛隊の課題は多い。果たして自衛隊を明記するだけの単純な加憲案でいいのか。現場で苦労するのは、私たちと変わらずタバコを吸って酒を飲み、踊って余暇を過ごす「生身」の隊員たちだ。

 前出の渡邊氏は言う。

「北朝鮮のミサイルや核の脅威など、PKO派遣を決めた25年前とは日本を取り巻く安全保障環境が大きく変わっています。自衛隊の本来任務は国防であり、今後はさまざまな観点から国際貢献のあり方、自衛隊のあり方を議論すべきです」

 中力1佐の「戦場での一服」の重みと意味が、あらためて今、日本人に突き付けられている。

笹幸恵(ささ・ゆきえ)
1974年生まれ。旧日本軍や自衛隊をテーマに取材するフリーランスのジャーナリスト。国内に留まらず、ガダルカナル島などかつての激戦地にも足を運ぶ。主な著作に『女ひとり玉砕の島を行く』『「白紙召集」で散る』がある。

週刊新潮 2018年2月8日号掲載

特別読物「憲法改正は現実味を帯びても…… 誰も知らない『自衛隊』南スーダンPKOの最前線――笹幸恵(ジャーナリスト)」より

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