「10年で30%減」 朝日新聞元部長が示す「新聞社崩壊」驚愕のシミュレーション
問題は「偏向」ではない
安倍首相が自身に関する朝日新聞の記事に対して批判を続けている。森友学園疑惑に関連した同紙の記事には間違いがあり、またその件についての朝日側の説明は、「哀れ」で「惨めな言い訳」だというのだ。
近年、新聞に対する批判の中でも目立つのが、「誤報」や「偏向」にまつわるものである。
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「特定のイデオロギーに肩入れしすぎた新聞は読者に見放される」
こんな見立ても少なくない。
しかし、まったく別の視点から、このままでは新聞社が立ち行かなくなる、と指摘しているのが、畑尾一知氏だ。畑尾氏は、朝日新聞の販売局に長年勤務し、2003年には販売管理部長を務めた人物。販売という側面から新聞社というビジネスモデルの未来を展望した新著『新聞社崩壊』を上梓したばかりだ。以下、同書をもとに販売のプロが見た、新聞業界慄然のシナリオを見てみよう(引用は、同書より)。
読者減はとまらない
畑尾氏は、独自の推計により、2005年~15年の10年間で新聞の読者は25%、約1300万人減っており、さらに今から10年後には最低でも30%減る、と見ている。
その根拠としているデータの一つはNHK放送文化研究所の「国民生活時間調査」。各世代が何に時間を費やしているのかを調べたもので、この中には「新聞(を読む時間)」も含まれている。ここから、新聞を読む人の割合がわかる。
これを見ると全世代で新聞を読む人の率が2005年には44%だったのが、2015年には33%になっているのがわかる。
調査対象は10歳以上からなので、その人口にこの%をかけあわせると、たった10年間で新聞を読む人は「実に1300万人、約25%も減ったことになる」という。
ではこの先はどうなるのか。10年後、各年齢層が10歳年を取った場合を畑尾氏がシミュレートした結果、2025年の読者数は約2600万人。
2005年のそれが約5000万人、2015年が約3700万人なので、たった10年で30%も減るというのが、同書での予想である。
部数の謎
ここで新聞関係者からは反論が寄せられるかもしれない。というのも日本新聞協会の年鑑によれば、2005年から2015年までの新聞の総発行部数は5260万部から4420万部へと減ってはいるものの、上の予想とはかなり乖離がある。読者数が25%減っているはずなのに、部数は16%減にとどまっているのだ。つまり総部数は減っているが、1読者あたりの新聞発行部数が増えたことになってしまう。
その理由を畑尾氏はこう見る。
「この10年間で複数の新聞を読む人が増えたとは、とても考えられない。発行部数の大部分は新聞販売店経由で宅配されていることを考えると、2005年から2015年にかけて販売店に滞留する新聞(死蔵在庫)が増えたことが、その理由だろう」
販売店に滞留する新聞のことを、新聞業界では「残紙」と呼ぶ。週刊誌などが「押し紙」と呼ぶものと同じようなものだという。残紙は新聞本社と販売店との間のトラブルの一因となっており、昨年、共産党議員は国会で朝日、毎日、読売の残紙を問題として取り上げたこともあるほどだ。
スクープで部数は伸びない
新聞に限らず記者にとって、スクープは常に狙うべきものであり、勲章でもあろう。しかし、販売面を見た場合、スクープの恩恵はない、というのが畑尾氏の見解だ。ただし、誤報や不祥事の影響はあるという。
「最近では、朝日の慰安婦報道に関わる一連の問題、読売が前川喜平前文部科学事務次官が『出会い系バー』に通っていたことを記事にしたことが、少なくない読者の反感を買った。そういう時は、“即止め”といって、翌日から新聞の配達を断られることもある。
その反面、スクープ記事が出たからといって、『あの報道が素晴らしかったから、おたくの新聞を取ろう』と購読を申し込んでくる人はまずいない。
日夜スクープ合戦に飛び回っている記者からすると、認めたくないかもしれないが、これが現実である。
2017年には、森友学園や加計学園にまつわる報道で朝日が独自記事を連発したが、それによって新規に朝日を読みたいと申し込んでくる人は、あっても稀である。
第一、「モリカケ問題」報道が朝日の独壇場であったことを知っている人は、ほとんどいないのが現実である」
こうした意見を目にすれば、安倍首相は「それ見ろ」とご機嫌になるかもしれない。
ただし、同書で畑尾氏が公開している独自に算定した全国紙、各地方紙の「経営体力」を見ると、読売、日経ほどではないにせよ、現状、朝日のそれはかなり高い数値を示している。少なくとも、よほどのことがない限り、首相在任中に天敵が崩壊することはなさそうなのである。