憲法改正は現実味を帯びても… 誰も知らない「自衛隊」南スーダンPKOの最前線

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誰も知らない「自衛隊」南スーダンPKOの最前線――笹幸恵(上)

 人は得てして「イメージ」で物事を考えがちである。屈強な自衛隊員――。だが、彼らとて人の子。任務の傍らで、タバコも酒ものみ、レクリエーションではねぶたを踊る。憲法改正が現実味を帯びるなか、知られていない南スーダンPKOの「生身の自衛隊員」報告。

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 彼は7月13日頃だったと記憶している。

 国連平和維持活動(PKO)南スーダン派遣施設隊第10次要員の指揮官・中力(ちゅうりき)修1等陸佐(49)は、このとき3日ぶりに「ラーク・マイルド」に火を付け、「はああ」と大きく息を吐いた。

「本当はまだピリピリしている状態でしたけど、やっと一息ついたのがこの頃。今は禁煙していますけど、このとき吸ったタバコは本当においしかった」

 2016年7月に起きたアフリカ大陸・南スーダン共和国の首都ジュバでの銃撃戦、通称「ジュバ・クライシス」。一連の情勢悪化で現地の人などに多数の死傷者が出て、日本の宿営地にも流れ弾が飛来した。そのジュバから1万1000キロ離れた東京では、のちに「戦闘が生起」と書かれた日報の隠蔽問題を巡り、戦闘ではなく「武力衝突」だったとの「解なき論争」が繰り広げられ、稲田朋美防衛大臣および岡部俊哉陸上幕僚長が辞任する騒ぎとなった一件である。

「隊員の安全確保が第一ですから、とにかく正確な情報を早く取る。あとは隊員への退避指示。これは平素の訓練通りです。ただ、もし隊員に何かあったら家族に何と言えばいいのか、正直そんなことを考える自分がいました」(同)

 幸いにも隊員に死傷者は出なかったが、17年3月、政府はPKO南スーダン派遣の撤収を閣議決定、2カ月後に撤収を完了した。

 現在、安倍晋三首相は自衛隊を憲法に明記する改憲案を打ち出し、国会でも議論を加速させようとしている。しかし、そもそも自衛隊の海外での活動を知る人は極めて少ない。南スーダンでは、「屈強」であると同時に、ラーク・マイルドで一息つく私たちと変わらない「生身」の人間である自衛隊員がPKOに従事していた。それを知ることは、戦闘か武力衝突か以前に、「海外で自衛隊員が活動すること」の意味を問い直す作業でもある――。

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