外国で「自衛隊」と名乗ると笑われる?! 英訳すると「護身隊」──元陸上自衛隊トップが指摘する「軍事のリアル」

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 総選挙で自公政権が圧勝し、いよいよ憲法改正が現実の政治課題に入ってきた。安倍総理は現在の憲法9条の2項に加えて「3項」を創設し、そこで「自衛隊」の存在を明記することで、これまでの憲法論義に終止符を打つというプランを示している。

 しかし、そもそも「自衛隊は軍隊ではない。自衛のための組織である」という「虚構」を維持したまま、憲法にまでその名称を規定してしまうことは妥当なのだろうか。元陸上自衛隊トップの陸上幕僚長を務めた冨澤暉氏は、近著の『軍事のリアル』の中で、「自衛隊という名称は、極めて不都合」と指摘している(以下、同書に則して記述)。

自衛隊は英語に訳すと「護身隊」になる

 昭和30年代のこと、陸軍士官学校を卒業した幹部自衛官がアメリカの軍学校に留学した。そこで、幹部自衛官は、「我々は陸軍(army)ではなく陸上自衛隊(ground self-defense force)である」と説明したら、クラスで爆笑が起こったという。その人は、なぜ自分が笑われているのか分からなかったが、それが「侮蔑の笑い」であると知り、帰国後に自衛隊を辞職してしまった。

 この幹部自衛官は、なぜ笑われてしまったのか。それは、米国人にとってself-defenseという言葉は、国際法上の「自衛」ではなく、刑法上の「正当防衛」をイメージさせるからである。例えば、自分の身を守るための「護身術]は、英語ではart of self-defenseと言う。だから、self-defense forceという言葉を聞くと、彼らの耳には「護身隊」とか「正当防衛隊」と聞こえてしまうらしい。「世界秩序や国家を守る軍隊ではなく、専ら自分の身を守る部隊」というものは、少なくとも世界の軍隊の常識では考えられない。

 自衛隊と米軍など他国の軍隊との協力関係が進み、日本の事情を理解するようになった軍事・外交関係者は増えているから、昭和30年代ほどではないだろうが、駐在武官などで「自分はself -defense forceの所属である」と話して同様の侮蔑を受けた人は多数いると言う。

自衛隊を「自衛軍」にしても同じ

 数年前、自民党が憲法改正草案を検討していた当初、冨澤氏の元に「自衛隊」を「自衛軍」と規定するらしい、との情報が流れてきた。何人かの元自衛隊関係者と話をしてみたが、「自衛隊」を「自衛軍」にしたところでself-defense forceという英語表記は変わりそうにない。そこで、せめて「国防軍」にしてくれ、と申し入れをしたという。そのこともあったのか、現在の自民党憲法草案には「国防軍」の表記があるが、「長年慣れ親しんだ『自衛隊』でいいじゃないか」という意見は国民だけでなく、国会議員の間にも根強い。

 しかし、冨澤氏は、「軍事や安全保障は国際的な問題であり、国内外で共通する言葉で討論しなければ議論にならない」と言う。「自衛隊は軍隊ではない」という虚構は、国内では通用しても国外では理解されまい。現代の軍隊が、「戦争のための国家組織」というより「国際社会の平和と安定を協力して守るための装置」となっている今、「共通の土壌」の必要性は、より高まっている。

 冨澤氏は、「陸上自衛隊は陸軍(army)、海上自衛隊は海軍(navy)、航空自衛隊は空軍(air force)と位置づけるのがやはり理にかなっている」と述べている。

デイリー新潮編集部

2017年11月21日掲載

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