長寿世界一のイタリア「チレント」地域 海でも山でも“地中海食”と真似したい認知症予防法

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ここでも「生きがい」

 こうした習慣は、ピオッピ在住の医師、ジュゼッペ・スカラーノ氏の、

「調査の結果、同じ食材を地域で分け合ってきたために、全体が長寿になった面があると考えている」

 という言葉の証左であろう。また、健康寿命が長い山梨県と重なる面もあるようで、山梨大学医学部の山縣然太朗教授が説く。

「山梨にも庭で野菜や果物を作って、近所の人と交換したり、親戚に送ったりする文化があります。それは“相手にもらったからお返しをしないと”という責任感や、“孫に喜んでもらいたい”という役割意識をもって行われるので、生きがいにもつながる。役割が失われると、人の心身はどんどん衰えます」

 ここでも「生きがい」である。さて、アントニオさんはこう付け足した。

「農業従事者が多く、活動的でよく働きます。だからカロリーの高い肉なども食べるけど、すぐ消費されてしまうのです」

日本人にも真似できる認知症予防法

 そんな実例を訪ねた。ピエトロ・フェッラッツァーノさん(104)は結婚経験がないため、甥夫婦と一緒に暮らしている。代弁してくれた家族は、

「叔父はいまに至るまで薬はほとんど飲んでいません。昔は農夫で、毎日畑を耕したり、小麦の収穫に従事したりしながら、ここで伝統的な“地中海食”を食べてきました」

 そう言って、その中身を説明してくれる。

「朝食は8時ごろ、牛乳とパンにオリーブオイル。山に行くのでカロリーが必要だから、ピーマンのオイル煮とかも。昼食は12時半ごろで、よく食べていたのがアクアサーレ(塩水)と呼ばれ、固くなったパンを塩水に浸して、トマトやオリーブ、ニンニク、オレガノ、オリーブオイルなどで和えたもの。パスタのときもあります。肉も、もちろん魚も食卓にのぼります。夕食も同様で、昼と夜は同じくらいの量を食べ、赤ワインも飲んできました。パルミジャーノ・チーズや煮たリンゴもよく食べます。タバコは吸いませんでした」

 若いころから、じっとしていなかったそうで、

「畑を耕しに行っては寄り道し、床屋や洋服屋に行っては、今日はこっちのバールでおしゃべりし、今日はこっちで、という感じ、快活に過ごしてきました」

 そんな“ピエトロおじさん”のもとを、いまは村の人たちが日々見舞い、家族同然のコミュニティが、さながら福祉センターの役割を果たしている。そんなありように対し、お茶の水健康長寿クリニックの白澤卓二院長が補足する。

「スウェーデンで“社会的な交流頻度と認知症の発症率”を調査した結果、一人暮らしで知人の訪問が週1回未満の人の発症率は、1000人中160人でした。ところが家族と同居し、知人や子供が週1回以上訪れる人の発症率は、1000人中20人。生涯健康で過ごすために、認知症予防は最も重要な要素ですが、それには社会的な交流が大きな役割を果たすのです」

 また、ピエトロさんの家族はこうも言う。

「日曜日には必ず教会のミサに行っていました。100歳のときに、お礼参りで久しぶりに教会に行き、ジェラートを食べて帰ってきたんですよ」

 実はアッチャローリでもピオッピでも、健康な長寿者は、異口同音に「教会には毎週通っている」「通っていた」と話していた。

「毎週、日曜日に教会に通えば、人と会い、おしゃべりをしたり、食事をしたりと交わり合いますね。信仰も心の拠りどころになっているかもしれませんが、それよりも、人と接する機会があるということが、長寿にプラスに作用しているのだと思います」(東大名誉教授(老年医学)の大内尉義(やすよし)氏)

 食生活は日本人の伝統的なそれと近い。オリーブオイルや赤ワインも、いまでは入手しやすい食材だ。加えて、塩分や糖分も控えめにし、坂や階段をいとわずに歩き、オシャレ心を忘れず、人との交わりを欠かさない。それは、チレントの気候や風土と無縁の地でも実践できるはずである。

週刊新潮 2018年2月15日号掲載

特集「現地取材『百寿者』率が世界一! イタリア『チレント』地域で見つけた長寿の秘密」より

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