長寿世界一のイタリア「チレント」地域 現地取材で秘密に迫る

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「命の食卓」に並ぶ食材

 村長の話にバールが出てきた。喫茶店に近いが、隣のテーブルの人と視線も交わさない日本のそれと違い、“たまり場”として地域のコミュニティの中心を担う。村長の片腕で、米カリフォルニア大学サンディエゴ校の現地調査に協力し、訪米もしたというドメニコ・スカラーノさんが言う。

「地域が狭いから周囲は昔からの知り合いばかり。仕事をリタイアしても、切れない関係がたくさんあるから、孤独と無縁です。お年寄りは、たとえ足が悪くても、杖をついてバールにきます。会話を交わすのが生きがいで、実際、思い出話をしたりすることが頭の体操にもなるようです」

 役場で紹介された女性とバールで会い、そんな実例のもとに案内してもらった。そこから徒歩で1分ほどの、ジュゼッペ・ヴァッサッロさん(95)の自宅である。

「僕が子供のころは貧しく、食べ物がなかったから、働くしかなかった。10代で羊を飼い、成長して漁師になりました。カタクチイワシにマイワシ、タチウオ、タコとかを獲ったけど、特に冬は魚が売れず、自分たちでたくさん食べました。アクアパッツァやフライにしてね。肉はあまり好きでなくて、食べても鶏やウサギ、豚など白い肉。牛肉など赤身の肉は、お祭りの日にしか食べませんでした。野菜は自分たちでも作って、キャベツやカリフラワーとかをよく食べ、果物も農園で採れたナシやリンゴをたくさん食べてきました」

 タバコはもう何十年も吸っていないとか。だが、同様の食生活を重ね、1年前に103歳で亡くなった兄は、吸いつづけたそうだ。

「振り返っても粗食でしたが、いま思えばそれがよかった。意識していたわけじゃないけど、理にかなった健康食だったようです」

 しかも、日本人に馴染の深い食材が多い。ほぼ薬要らずでここまできたというジュゼッペさんが、「薬代わり」と呼ぶのが、

「どんな料理にも使うオリーブオイル。これがお腹を整えてくれます。自家製の赤ワインも飲んできました。昔は白ワインがなくて、魚料理にも赤ワインを合わせていました」

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