純朴な“泉澤祐希”が見せた狂気! 石原さとみ主演「アンナチュラル」第5話

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許されざる“復讐”というテーマ

 第5話の裏テーマは「真実の究明や、正義感からおこなわれる犯罪行為(復讐)をどう捉えるか」を問う倫理観だったのではないだろうか。

 巧は、自殺として処理された妻の死の真相を知りたいがために、遺体を盗み、ラボに持ち込んでいたが、結局、妻の遺体は遺族に取り返されてしまい、荼毘に付された。しかし、遺体を縫合した中堂は、肺だけを取り出して保存しており(!)、溺死の際に吸い込んだ水質から、死因の特定を試みる。ミコトは、巧と中堂の思いを酌み、協力することを決める。調査はラボには内密のため、中堂の自宅でおこなわれることになった。

 中堂のかつての恋人が、他殺体として発見されたことを知っているミコトは、彼がどうして巧に肩入れしているのかを理解していただろう。しかし、明らかなルール違反となる調査を続行することに、ためらいはなかったのだろうか。一般的な倫理観よりも「不自然な死」を許さないというミコトの信念。その思いは改めて描かれこそしなかったものの、彼女のその強さは、いずれ同時に脆さにもなりうる予感を私は感じ取った。こうして、小さな伏線を張り巡らして「アンナチュラル」は進んでゆく。

 中堂、ミコトらの奮闘により、巧の妻が死んだのは、「女の子が飛び込んだ」という目撃証言のある、入水地点と見られていた場所ではなく、遺体の発見地点だったことが突き止められた。そして新たな手掛りである死後CTの画像から、巧の妻は自殺ではなく、顔面から海に落ちて叩き付けられ、すぐに気を失いそのまま死亡したという事実にたどり着く。

 その頃、中堂は巧とともに現場近くに赴いており、事故の目撃者の証言を洗っていた。「目撃者より目撃者が見たものを疑うべきだ」と中堂は言い、何者かが巧の妻を海に突き落とした後、自殺を偽装するために目撃者の前で海に飛び込んでみせたであろうことを示唆する。

 巧の妻を海に転落させたのは、巧に思いを寄せる彼の同僚の女性であった。巧の妻の葬儀の場に現れた彼女に向かって、巧は落ち着いた足取りで向かってゆく。駆けつけた久部の静止もむなしく、巧は女に包丁を突き立てた。中堂は、すべてを予想した上で、巧を結果的にけしかけたのだ。

 巧を演じた泉澤祐希といえば、NHK朝ドラ「ひよっこ」で、みね子(有村架純)の友人・時子(佐久間由衣)をひたむきに思い続けた三男役を記憶している人も多いだろう。純朴な佇まいの彼には、ひとりの女性を一途に思う役が似合う。今回もそうした青年であったはずの巧が、涌き上がる怒りを狂気に変え、同僚の女を刺した場面は、無音の演出とも相まっていっそう悲壮感を感じさせた。雪の降りしきる美しい、静かな背景。しかし、これを美しいと言ってよいのか……。先述の「復讐」の倫理観から言えば、巧の取った行動は間違っている。でも中堂だってきっと、恋人を殺した連続殺人犯をこの手で殺してやりたいと思っているはずなのだ。物語のターニングポイントとなる第5話で、この「倫理観」に向き合うテーマが示されたのは、今後の展開に大きな影響を与えるに違いない。

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