養老孟司×塩野七生 2人あわせて160歳「余計なお世話で生きてるだけ」

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モルヒネと毒人参

塩野 我々はもう80歳まで生きたんですから、何があってもどうってことないですよね。

養老 十分ですよ。あとは余計なお世話で生きているだけです。僕らが小さい頃は80歳まで生きている人はヘンな人だ、というくらい珍しかった。

塩野 私は人に迷惑をかけないようになるべく適度な時に死んだ方がいいと思っているの。だから長生きのために必要なことと反対のことをするようにしています。タバコは吸う。お酒は飲む。ご飯は好きなものを好きなだけ食べる。でも何かを食べたいと思っているうちは――。

養老 元気だということ(笑)。

塩野 昔、養老さんにどうしたら適度に死ねるんだろうと聞いたことがあるんです。そうしたら「モルヒネ」だって。「ギリシア人の物語」でも書いたんだけれど、ソクラテスが死ぬときに使った毒人参って本当に効くのかしら。四肢がだんだん麻痺してきて最後に意識がなくなっていく。

養老 いいじゃないですか。そんなこと考えなくたって、人間ダメな時はダメになりますから大丈夫ですよ。

塩野 養老さんは大学の医学部で教授をされていた頃はやむを得ず健康診断を受けなければいけなかったんでしょう。

養老 義務付けられていましたからね。でも僕は行きませんでしたけど。

塩野 私も行きません。だから私は自分の血糖値も知らない。

養老 健康診断を受けても受けなくても、それほど死亡率は変わらないというデータが出ています。でも日本では健康診断は義務。

塩野 前にパーティー会場で倒れたことがあるんです。調べたらタンパク質の数値がとても悪かった。でも、帰国してイタリアで検査を受けてみたら許容範囲内だった。日本とイタリアでは許容範囲が全然違うんです。こんないい加減な話があるのかと思いました。

養老 そういう話、よくありますよ。人間ドックの検査がオールオッケーで、その結果が出た時に心筋梗塞になってしまったとかね。

塩野 イタリアの学者でノーベル生理学・医学賞をとったリータ・レーヴィ=モンタルチーニは、100歳になった時にテレビのインタビューを受けていたんです。とってもおしゃれでエレガントな方で。長生きの秘訣を尋ねられて彼女は「明日目が覚めたら何をすべきかが、私にはわかっているから」と答えていたんです。その時、私も同じかもしれないと思ったんです。私の仕事も、昨日までに書いた部分を次の日に直して、また続きを書くということの繰り返しです。つまり、私も次の日にすべきことが見えている。だから私も下手をすると長生きしちゃうかもしれない。あぁ、どうにかならないかしら。

養老 心配しないで。いずれどうにかなりますよ(笑)。

養老孟司(ようろう・たけし)
1937年、神奈川県鎌倉市生まれ。東京大学医学部卒業後、解剖学教室に入る。助手、助教授を経て、同大医学部教授。95年に退官し、現在は同大名誉教授。文筆家としても『唯脳論』『バカの壁』『養老孟司の大言論Ⅰ~Ⅲ』など、著書多数。

塩野七生(しおの・ななみ)
1937年、東京生まれ。学習院大学文学部哲学科卒業後、63年から68年にかけて、イタリアに遊びつつ学んだ。68年に執筆活動を開始。92年より、ローマ帝国興亡の歴史を描く「ローマ人の物語」にとりくみ、1年に1作のペースで執筆、2006年に完結させる。最新作『新しき力』で、「ギリシア人の物語」シリーズ全3巻も完結。

週刊新潮 2018年1月4・11日号掲載

豪華対談「『遺言。』『新しき力』刊行記念 2人合わせて160歳! 養老孟司vs. 塩野七生 私たちの『物書き人生』最終章」より

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