「日本会議」をめぐるトホホなエピソード 古谷経衡氏が「日本会議黒幕説」を斬る

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日本会議黒幕説の流行

 第2次安倍政権発足以降、急激にその存在がクローズアップされ、何かと名前が取り沙汰されるようになった団体が「日本会議」である。昨年、森友学園関連の報道においても籠池前理事長がメンバーだったことが、安倍総理との密接な関係の根拠の一つであるかのような報道がされたこともある。

 この団体が一躍知名度を上げたのは、一昨年のベストセラー『日本会議の研究』(菅野完・著)に負うところが大きいだろう。同書のヒットもあって、日本会議関連本が次々出版され、「日本会議=安倍政権の黒幕」といった説も広く流布されることとなった。

 たとえば『日本会議の正体』(青木理・著)は内容紹介で、同団体のことを「安倍政権とも密接な関係をもち、憲法改正などを掲げて政治運動を展開する、日本最大の草の根右派組織」だと表現している。

『日本会議 戦前回帰への情念』(山崎雅弘・著)では、より過激な表現を用いている。

「日本会議と安倍政権が『改憲』へと傾倒する動機が、かつて日本を戦争に導いた『国家神道』を拠り所とする戦前回帰への道筋にある」

 こうした本を読めば、「何だか戦前に憧れている団体が、政権に多大な影響を与えている。彼らの存在はこれまでは黒幕だったので表に出ていなかった。怖い」と思うのも無理はないかもしれない。

老人会のようだった

 しかし、実体験をもとに「その手の見方は陰謀論。極論にすぎない」と一笑に付すのが、著述家・古谷経衡氏である。

 古谷氏は新著『日本を蝕む「極論」の正体』の中で「『日本会議黒幕説』という極論」という章を設けて、個人的な経験談を交えながら「陰謀論」を斬っている(以下、引用は同書より)

 古谷氏は毎年、8月15日には靖国神社を参拝することにしている。当日の靖国は右翼と左翼が入り乱れ、そこに機動隊もいるというかなり賑やかしい状況だ。

「そんな狂騒の靖国の中で、敷地内に毎年必ず、テントが張られ集会が開催されている。幕末の兵学者・大村益次郎の銅像の脇の広場である。これが、毎年開催される日本会議の『8・15』集会だ」

 その集会、やけにパイプ椅子に年配者が多いというのが古谷氏の印象だった。

「日本会議は、私にとって老人会に等しかった。その構成員の多くが頭髪がなくなり、白いものが寡占するような高齢の集団に過ぎないと、当時の私は思った。残念ながら今もそう思っている」

 こうした印象は、その後同団体が行うイベントに出席しても同じだった。

 もちろん、高齢者が多いことが悪いわけではない。それで影響力の多寡ははかれまい。

 しかし当時ネット右翼の研究をしていた古谷氏から見て、日本会議は時代遅れに見えたようだ。ネットで右派的な言論を展開していた層から見ると、日本会議は「圧倒的に遅れていた」というのだ。

「日本会議は電子化の波に乗り遅れていた。当時のネット右翼が当たり前に使うような動画番組や、SNSでの拡散を日本会議が行うようになったのは、ずっと後である。

 それがゆえに、今さらになって『日本会議が安倍政権を牛耳っている』などと言われても、私はいまだにピンとこない」

原稿料がクオカード

 さらに古谷氏にはこんなトホホな経験もしていた。『日本会議の研究』で、日本会議を構成する新宗教「生長の家」の信者であり、関西保守運動の重鎮、影のフィクサー的存在として登場するK氏という人物がいる。

 このK氏が発行している保守系同人誌に依頼され、古谷氏は寄稿したことがあった。文字数は2000文字程度。テーマはたしか安保法制だったという。問題はその原稿料だ。

 原稿提出から1週間くらいたって、掲載誌(といっても4ページほどのモノクロ・フリーペーパー風のもの)と手紙、そしてお年玉袋のような小さな封筒が同封されていた。

 中に入っていたのは、3000円分のクオカード。手紙には、

「本誌の経営が苦しいので、心苦しくはありますが稿料は同封のクオカードで勘弁してください」

 とあった。

 古谷氏は、当時すでに物書きとしてほとんど独立していたが、原稿料を現金振り込みではなくクオカードで貰うのはこれが初めての経験だったという(その後もない)。単純計算で原稿用紙1枚あたり600円程。原稿料に定価はないとはいえ、商業誌では400字詰原稿用紙1枚あたりで1000円を切ることはないだろう。

 ただ、それ自体に古谷氏は不快感はなかったし、ケチだとも思わなかったという。

「むしろその逆で、趣味的にやっているフリーペーパー風の同人誌への寄稿者に、僅かとは言え返礼を用意しようという、そのKのいじらしい心遣いに痛く感動さえしたほどである。(略)

 影のフィクサーとは、児玉誉士夫や笹川良一のことをいうのだ。児玉や笹川は、何かの対価として相手に3000円のクオカードで済ませるようなことはするまい。ロッキード事件に関与したとされる児玉がロッキード社から受け取ったとされる『児玉ルート』の総額は約22億円。3000円のクオカードとは話の規模が根底から違う。

 なぜ貧乏なKにそんな力があるのか、そんな力があると思っているのか、私はちっとも分からない。

 しかし、ひたすら反安倍と陰謀論で凝り固まっている極端な思想集団の一群は、Kの所属する日本会議にそのような力があると本気で思っている。『外部から監視や点検がなく、競争のない閉鎖的な空間』の中では、1の事実が100に誇張され、極論がまかり通る」

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