監視と縛りの日常生活“ブラック集落”を避けるには 移住民が落ちた「村八分」地獄

食・暮らし 週刊新潮 2017年11月23日号掲載

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移住天国の夢想家が落ちる「村八分」地獄――清泉亮(下)

 ノンフィクション・ライターの清泉亮氏が山梨県北杜市に移住したのは2014年のこと。現在は管理会社が管理する別荘地で暮らす清泉氏だが、以前に暮らした長野県佐久地方の過疎集落では、早朝からの雪かきなどのローカル・ルールに嫌気が差し、逃げ出した経緯がある。

 移住者のゴミ出し禁止など、自治体も手を出せない「村八分」について、その実態を紹介する。

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 次の話は、子供が生まれると同時に、東京郊外から移住してきた、ある若夫婦の体験である。

 子供が保育園に通い始め、新しい故郷に貢献したいとの一念から、母親は保護者会の会長にと手を挙げた。すると、どこから聞き及んだのか、集落の最長老格の女性からのアプローチが始まった。

「あなたには次があるから。まだ将来があるから」

 連日連夜の電話攻勢に自宅訪問と、ほとほと疲れ果てて立候補を取り下げるまで、その“説得”は続いた。

 理由は「若い者の言うことは年長者は絶対聞かないから」というもの。代々染み入った「長幼の序が絶対」の集落では、学識や見識ではなく、年齢こそがすべて、というわけだ。選挙の前から当選者が決まっているといわれる、悪名高い「甲州選挙」の本領発揮といえようか。

 一方で“集落一家”の紐帯を誇る地だけに、「乱す者」への監視も厳しい。

 移住して5年ほどになる集落居住者がいう。

「怖いのは選挙だ。立会人っているでしょ。あれが、集落の誰は投票に来た、誰は来てないっていうのをみんなチェックしてて、来なかった人間は後から吊し上げられるんだ」

 投票所での立会人も、狭い地域では、顔なじみの古老ばかり。誰が投票しなかったかは集落内で密やかに「共有され」、ときに忠誠が問われるのだという。仮に自治会に入れたとて、日常のあらゆる局面で、監視と縛りが待っている。移住組の70代主婦はこうこぼす。

「ゆっくり休みたいときも大変よ。5時に起きて、まずは居間のカーテンを開け放ってから、もう一度寝室に戻って二度寝よ。カーテン閉めたままだと何を言われるかわからないから」

 たとえ誤解された噂でも、流されてしまえば「事実」になる集落では、一瞬たりとも気が抜けない。

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