校則も制服も生徒会もない… 日本一自由な学校「麻布中高」が名門なワケ

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ドロップアウトする生徒は…

 意外なことに生徒会はない。山内校長代行時代に生徒協議会が消滅して以来のことだ。代わりに予算委員会、選挙管理委員会、サークル連合、文化祭実行委員会、運動会実行委員会が生徒自治を担う。約800万円の予算を彼らが管理・運営する。

 文化祭の期間、文化祭実行委員会のメンバーが髪を緑やピンクに染めるのが、ここ20年くらいの伝統になっている。ただしそれを麻布の自由の象徴だというのは間違いである。

「みんなやっているから自分もやるという流れになっていると思いますよ」(同)

 実際、染めている本人たちもカッコいいだなんて思っていない。私に言わせればあれは、麻布生が“いい子”の仮面を脱ぐためのイニシエーションだ。

 一方、運動会へのモチベーションは低い。競技に参加せず、運動会が終わるまで教室でトランプをしている生徒もいる。不祥事が続いて運動会が中止になったことも過去に何度かある。

「運動会という組織的な活動が、麻布の学校文化と食い合わせが悪いのかもしれません。それにしたって昔は、余興的な要素を取り入れてみんなが楽しめるようにする工夫が見られました。それすらないのはちょっとさみしいですね」

 これだけ自由だと、ドロップアウトしてしまう生徒も多いのではないかともよく言われる。これに対する平校長の答えはこうだ。

「入学して早々に、上には上がいることを痛感し、ほとんどの麻布生はまず鼻っ柱をへし折られます。でもそこで、ほかの誰にも負けない自分の得意分野で勝負をしようと気持ちを切り替えます。勉強ではかなわなくてもスポーツや趣味ではあっといわせることができるというように、自分なりの居場所を必ず見付けます。異性の目がないから、オタク的なことでも堂々と極めることができます。そうして再び自己肯定感を高め、お互いを認め合うことができるようになります。だから麻布にはドロップアウトする生徒はいません」

 成績が低迷する生徒はいても、それは麻布の価値観では「ドロップアウト」とは言わないということだ。

種も仕掛けもある

 結局毎年、高い大学進学実績を残す。それを支えるものとして、記述式の入試問題の質の高さ、教員が作るオリジナル教材の質、教員同士が火花を散らす教科研修、社会科のオリジナル科目「世界」や「現代」、中国・韓国・ガーナなどとの国際交流、教科の枠を超えた選択講座「教養総合」、高校で学期ごとに実施される「実力試験(通称ジツリキ)」、高3の夏休みに実施される約20の大学受験対策夏期講習が挙げられる。最近では特に低学年のうちは、こまめな小テスト、宿題、補習を行い、基礎学力の定着にも力を入れている。

 進学校として盤石な地位を保っているのには、種も仕掛けもあるのである。

 ある中学生はこう言う。

「先生たちのオリジナル教材は、得意分野についてはものすごく詳しく書かれていたりして、普通の教科書より面白い」

 その母親はこう言う。

「夏休みの宿題は、自分で調べて深掘りして書くタイプが多くて、興味関心がある子供にはいいと思います。一方、興味関心が定まっていない子供には、何をしていいのかわからないままになるリスクもあると思う」

 麻布出身の早稲田大学2年生はこう証言する。

「大学の授業を受けてから、麻布の教養総合の講座のレベルの高さに気付いた。大学の授業に負けていない」

「もともと力のある子ばかりで、飲み込みが早く、プライドもある。しかもぎりぎりまで勉強していなさそうに見えた先輩が難関大学に入っていくのを毎年間近に見ていますから、自分もきっとそうなるんだという暗示がかけられます。現役で力を発揮できるかどうかは微妙なのですが、一浪すれば少なくとも第2志望あたりには入ります」(同)

 麻布生の大学入試突破力は、ある種の集団催眠によるものかもしれない。

 その催眠状態が卒業して何十年たっても続くのだろうか。麻布出身者の多くに共通する悪い癖は、一度母校自慢が始まると止まらなくなることだ。

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おおたとしまさ(育児・教育ジャーナリスト)
1973年東京生まれ。麻布中高卒、東京外国語大中退、上智大卒。リクルートから独立後、教育誌等のデスクや監修を歴任。中高教員免許を持ち、私立小での教員経験もある。『ルポ塾歴社会』など著書多数。

週刊新潮 2017年9月21日号掲載

特別読物「OBに総理2人『前川喜平氏』も! 64年連続東大合格者トップテン!! 日本一自由な学校『麻布中高』の『自由』の授け方」より

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