恐る恐る「寿命」を測ってみた――命のロウソク「テロメア」とは

ライフ

  • ブックマーク

Advertisement

恐る恐る「寿命」を測ってみた

 とはいえ今回、

〈実際にテロメアの長さを測ってみませんか〉

 編集部からそう声をかけられた時、私はいささか戸惑った。自分に残された時間を知るのは、率直に言って怖い。命に関わる病を患っているわけでもなく、普段忘れている死をわざわざ意識させられる必要もない。と同時に、人生の折り返し地点とされる40歳を越した今、現実と向き合っておくべきだとの声も頭の片隅から聞こえた気がした。死神の案内で洞穴に行ってみるのも悪くはない、と思い直したわけだ。

 検査を担当したのは、先の田原教授が代表を務める、広島大学発ベンチャーの「株式会社ミルテル」。国内外で唯一テロメアとGテールの長さが測定できる機関であり、

「採取した血液からDNAを抽出し、これにプローブという媒介物を混ぜ合わせます。さらに発光試薬を加えることで、光の強弱からテロメアの長さを測定するのです」(田原教授)

 現在、全国150以上の医療機関と提携して検査を受け付け、料金は3万8000円からとなっている。

 広島の医療機関で5ccの血液を採取されてから約2週間後、私のもとに検査結果が送られてきた――。

 そこでは、テロメアの長さが「テロメア年齢」として記されていた。これは被験者のテロメアが、日本人の年齢別平均値と比べてどの位置にあるのかを表した指標である。それによると私のテロメア年齢は47歳。あくまで目安だが、実年齢より7歳ほど老化していると解釈できる。ちなみに私の母親は、長寿の地として知られる鹿児島県奄美大島の出身。亡き祖父母もともに長生きだったため、自分も長寿に違いないと信じ込んでいたのだが、その甘い見通しが打ち砕かれた気分である。

 さらにショックを受けていたのは、一緒に検査を受けた編集部の50代男性記者。実年齢より何と13歳も余計に年を食っているとの結果が出てしまった。

 私と50代記者は、テロメアとともにGテールの長さの測定も試みた。私の場合は、0から17までの尺度のうち11・5。0〜6が「危険」で6〜10が「注意」、そして10〜17が「良好」と区分けされているので、何とか良好の範囲内に収まったわけだ。しばらく前からジョギングをしたり食べ過ぎを控えたりと健康を気遣った生活を送っており、その成果がある程度現れたのだろうか。一方、喫煙者で酒量も多く、不摂生を自覚している50代記者は、注意領域の9・8を叩き出し、うなだれるばかり。

 田原教授が言う。

「ある男性のケースを挙げましょう。48歳でテロメア年齢が42歳、Gテールの尺度も11と良好でしたが、その3年後、51歳でのテロメア年齢は65歳、Gテールも9・6と大幅に悪化しました。聞けば、激務続きで過度のストレスに晒された上、日常の運動習慣も休止せざるを得なくなり、体重が増加していったといいます。ストレスや不健全な生活習慣は、テロメアとGテールの短縮に直結します。この男性はのちに、動脈硬化が発症してしまいました」

 が、幸いこの2つは、短くなっても長持ちさせることができるというのだ。

「Gテールは、短くなるとテロメアを削って元の長さへと戻ります。テロメアも、生活習慣を改善すればテロメラーゼと呼ばれる酵素が活性化して短縮スピードを遅らせ、テロメア年齢を伸ばすことができるのです」

 Gテールの長さを維持し、テロメア短縮の速度を遅らせるには、一体どのような暮らしを送ればよいのか。

(下)へつづく

 ***

緑慎也(みどり・しんや) 1976年大阪府生まれ。出版社勤務後、フリーとなり科学技術等をテーマに取材・執筆活動を続けている。著書に『消えた伝説のサル・ベンツ』(ポプラ社)などがある。

週刊新潮 2017年10月5日号掲載

特別読物「現在の寿命が一目で分かる! 命のロウソク『テロメア』を長持ちさせる健康術――緑慎也(科学ジャーナリスト)」より

前へ 1 2 3 次へ

[3/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。