2017年を振り返る:「事故物件」のエキスパート、大島てるが語る本年度最悪の死体遺棄「座間9遺体事件」

国内 社会 2017年12月28日掲載

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 殺人や自殺が起きたいわゆる「事故物件」ばかりを掲載しているサイトがある――「事故物件公示サイト 大島てる」( http://www.oshimaland.co.jp )。同サイトが、俄然注目を集めたのが「座間9遺体事件」だった。今年最悪の死体遺棄事件は、事故物件エキスパートの目にどう映ったのか

――「座間9遺体事件」の発覚直後に、死体遺棄があった部屋の隣の住民から、大島さんのサイトに投稿があったそうですね?

大島てる(以下てる) はい、事件発覚当日の10月30日午後11時27分にこういう投稿がありました――「自殺サイト絡みの複数の遺体発見●●(実際には該当マンション名)にて事件公になる前から隣の部屋に居住中妙な異臭が隣の部屋から漂う気配を感じましたところ、しばらくして外部の動きを感じた処警察関係者多く来ておりテレビ報道を見て大変驚いています。即急に引っ越しの手配を進めており皆様もくれぐれもこのような物件には立ち入る事のないように願います」。

――うーん、大当たりというか、驚きの内容ですね。

てる 投稿情報はネットを駆け巡り、自分たちのサイトにとって一里塚ともいえる出来事になりました。ただし、この投稿は現在掲載していません。なぜなら、サイト管理人である私の役割のひとつは、投稿者に関する情報を秘匿し、彼、彼女らを保護することだからです。ですから、私自身もあえてこの方の素性を把握していないんですよ。把握していなければ、うっかり口を滑らせてしまうこともありませんから。

――ずいぶん注意深くサイト運営をされているんですね?

てる 私に対する脅迫はあるので、投稿者に危険が及ばないようにしないと。今年も、「自殺物件が掲載されているが、その自殺者は自分の親友。こんなサイトの運営者を殺したい」といった内容の殺害予告がされて、私が出る予定のイベントが中止されたりしました。結局、最近になって、その男は脅迫容疑で逮捕されましたが。

――それほどの危険に晒されているのに、なぜサイトを運営し続けるのですか? そもそも、どうして始められたのでしょう?

てる 私が継いだ家業は、土地を買い、建物を建て、賃貸する小さなデベロッパー。その仕事を通じて初めて事故物件の存在を知ったのですが、当時はそれらの情報が公にされていなくて困ってしまった。それで、情報をみんなで共有すれば役に立つのではないかと思い立ったわけです。人々には、事故物件と承知で嘘をつく悪徳大家や悪徳不動産屋から身を守る権利があると、私は強く思っているんです。イメージとしては、ウィキペディアの事故物件版。ですから、間違った情報が投稿された場合は、遅滞なく削除、訂正し、情報の精度を高めています。

――掲載されている事故物件はどのくらい?

てる サイトでは、「殺人」「自殺」「火災で死者が出た」「孤独死が発生した」等――これらの物件を事故物件と定義していますが、実際には、上記のいくつかが重なる場合が珍しくありません。現在の情報数は4万件以上。それから、1日のページビューは100万弱といったところです。

――ところで、座間の物件は実際に見られましたか?

てる 11月に現地を視察しました。サイト内の「神奈川県座間市の該当マンション」の項に表示されている写真は、私と同行したスタッフが撮影したものです。

――アパートの様子を教えてください。

てる 2階建てで、1階2階とも6部屋ずつの計12部屋。1階には101号室から107号室、2階には201号室から207号室がありますが、104号室と204号室は存在しません。大家が験を担いだのかもしれませんね。

――験を担いでこの結末……。

てる あのアパートの不動産広告をご覧になりますか?

――え! 大島さんって、そんなものまでお持ちなんですか? 是非見せてください。

てる 実は、事件後広告は取り下げられまして、これは、どなたかがネット上にアップしたもの。しかし、内容は私自身の調査と一致しています。各部屋ロフト付きで、角部屋か否かなどを除けば、事件があった●●号室を含めて全室同じ間取りのようです。

――たくさんの事故物件を見てきた大島さんの目に、「座間9遺体事件」はどう映りましたか?

てる 第一に、「9人」は私が知る限り、ひとつの部屋で最多の殺害数ということ。第二に、また神奈川県かという思い。大口病院事件、相模原障害者施設殺傷事件、平塚5遺体事件……すべて神奈川県での出来事でした。それから、報道は「5W1H」といわれますが、「どこで」の部分が軽視されていると思いましたね。住所はもとより●●号室と明記した報道はめったになかったけれど、私にとって最も大事なのはこの部分。「どこで」を知ってこそはじめて、安心して住まい探しができるというものです。あと、「1物件に9遺体」というのは確かに悲惨なのですが、一方で、いち個人による犯罪のようなのでオカルト的な恐怖は感じなかったですね。

――どういうことですか?

てる たとえば、東京足立区の小さなビルでは、まず3階で傷害致死事件がありました。その後、屋上で首吊り自殺が起き、そのまた後には、1階の大家さんが殺されました。犯人は2階の住人で、その犯人も殺害後に山奥で自殺しています。4人の死は4年余りの間に起きているのですが、単独犯による連続殺人でないだけに、私にはより気味が悪い……。

――なるほど……。ところで、座間の大家さんは、プロボクサー、井上尚弥さんのお父さんのようです。また、このアパートは家賃保証会社が管理しているらしい。大島さんは、このアパートが今後どうなると思われますか?

てる 事故物件でなくても、家賃保証会社が家賃を減額することは頻繁にあります。このアパートの家賃保証がなくなるのは確実です。すなわち、入居者のあるなしにかかわらず大家に家賃が入るという状態から、入居者がいれば家賃が入るという不安定な状態に変わるわけです。

 その後についての長期的な予想ですが、これはもう当然解体でしょう。ただし、現在の入居者が、「事故物件であるが故の低額家賃」に魅力を感じて、引き続き住みたいということになると、追い出すわけにもいかず、櫛の歯が欠け切るのを待つしかないといった状況になりかねません。他方で、現在の空室や、今後生じる空室に関して入居者を募集するのはお勧めできません。興味本位の冷やかし客ばかりを大勢引き寄せることになり、成約にいたるまでが大変なはずですから。

――事件そのものも悲惨ですが、大家さんの末路も悲惨ですね。マンションのたったひとつのユニットが事故物件になってしまった私としては、他人事と思えないというか……。

てる だからね、大家というのは大変リスキーな商売だと思いますね。実は過日、大家さん向けセミナーで講演をしたのですが、久川さんの『実録 水漏れマンション殺人事件』にも言及したんですよ。「この本を読んで、1カ所でも知らないことがあったら勉強不足。今すぐ大家をやめるべき」とね。すべての不動産購入はギャンブルであるという厳然たる事実が、あまりにも無視されているのが現状だと思います。

――私なんか、そのギャンブルでスッテンテンになっちゃったわけで〜。さて、今年もまもなく終わります。来年はどんな事故物件が掲載されるのか? 世情の平穏を祈りつつ注視していきたいと思います。大島さん、来年も励んでネ。

てる ありがとうございます。

インタビュアー/久川涼子(『実録 水漏れマンション殺人事件』著者)

大島てる(39)。東京大学在学中に家業のデベロッパー業を継ぐ。2005年より「事故物件公示サイト 大島てる」開設。http://www.oshimaland.co.jp