「遺書全文」をマスコミが公開してはいけないワケ 精神科医が「自殺報道」を考える

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 韓国の人気アイドルグループSHINeeのメインボーカル、ジョンヒョンさんが、12月18日に亡くなった。自ら命を絶ったとみられている。その報道は瞬く間に世界中に広がり、ファンだけでなく多くの人の心に悲しみの影を落としている。

 19日には、ジョンヒョンさんの友人のロックバンドメンバーが、遺族と相談した上で、自身のインスタグラムを通じ、ジョンヒョンさんの遺書を公開。そこには、死を選んだ彼の心の内が綴られていた。その遺書全文を、朝日新聞デジタルが19日に掲載。これが波紋を呼んだ。

 現在記事は削除され、20日には「これは自殺報道に関する社内ガイドラインに抵触していました。また、世界保健機関(WHO)の『自殺予防 メディア関係者のための手引き』の趣旨に照らしても不適切と判断し、削除しました。社内のチェックが不十分でした。今後、再発防止に努めます」というお詫び文が掲載された。

 マスコミの自殺報道により、自殺者を増幅することを「ウェルテル効果」と呼ぶ。特に若年層が影響を受けやすいとされており、そうした自殺の連鎖を軽減するため、2000年に世界保健機関(WHO)が、「自殺事例報道に関するガイドライン」を発表。自殺予防のためにマスコミが「してはならないこと」として、「遺体や遺書の写真を掲載する」「自殺方法を詳しく報道する」「自殺を美化したりセンセーショナルに報道する」などが挙げられている。

 精神科医の和田秀樹さんは、「適切な報道は自殺予防に大きな役割を果たす」としながら、自殺予防に効果的なWHOのガイドラインをマスコミが未だに順守していないと指摘する(以下「 」内、『テレビの大罪』(和田秀樹・著)より抜粋、引用)。

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「自殺報道が自殺を誘発することは、以前から指摘されています。死にたいと思っている人は、きっかけさえあればそれを実行に移してしまう。そして、うつ病患者の少なくとも3割は、希死念慮(死にたいという気持ち)を持つと言われています。つまり日本には今現在、死にたいと思っている人が最低でも100万人近くいるということです。その100万人に対する影響を、本気で考えなけれなりません。(中略)

 実際、中学生の自殺が顕著に増えた年があります。1986年と94年です。86年には東京の中野でいじめを苦にした中学生が自殺、94年には愛知県で激しい恐喝による自殺がおき、いずれも『いじめ自殺』として大報道された年でした。これを見る限り、いじめで自殺する子どもより、報道に誘発されて自殺する子どものほうが多いとしか思えません。

 オーストリアでは、この(WHOの)ガイドラインを守るようになった途端に地下鉄自殺が減りました。練炭自殺や硫化水素自殺のやり方を見て、真似する人が後から後から出てしまった日本とは正反対です。効果的なこのガイドラインをマスコミが順守しないのは、先進国では日本だけのようです。いろんな項目があるため、一見複雑ですが、単に自殺に関する報道を控えるだけで、大方の問題は解決するでしょう。

 たとえガイドラインを守らない自殺報道を見ても、97%の人は『かわいそうに』『あんな偉い人がね』で済みます。しかし、のこり3%のうつ病の人は『やっぱり俺も死のうかな』ということになってしまいます。人の生死に関わっている以上、この3%の人たちへの影響は考慮されてしかるべきです」

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 和田さんは、ガイドラインを守ることについて「実質的なデメリットはほとんどないと思われます。もしも関係者の中で『自殺報道のガイドラインを守らないメリット』を主張できる人がいれば、ぜひ教えていただきたい」と強く訴える。痛ましく悲しい出来事が起こってしまった今だからこそ、報道のあり方について真剣に考えるべきなのかもしれない。

デイリー新潮編集部

2017年12月22日掲載

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