脱北女性が見た北朝鮮核実験場「豊渓里」死の光景 研究員だった夫は歯がすべて抜け落ち…

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「地上の楽園」だった頃

――そんな科学者の中には、スパイ容疑で処刑されたり、被曝の影響で錯乱状態となって亡くなった人もいたという。まさに死と隣り合わせの日常が展開されていた実験場は、平壌から直線距離で約400キロ。列車を乗り継げば長くて3日もかかる山間の僻地にある。だが、彼女が初めて訪れた時は、“豊”かな“渓”谷の“里”を示す名の通り、まさに「地上の楽園」だったという。

「私が14歳の時、父は人民軍出版社の記者として各地を取材していました。それに同伴して訪れたのが豊渓里でした。今でも人生でこれほど美しい場所は訪れたことがありません。谷間には万塔山(マンタプサン)(標高2205メートル)を源とする豊渓川(プンゲチョン)と南渓川(ナムゲチョン)が流れていました。川の水はとても澄み、手ですくって口に含めばこれまで飲んだことのない味がした。

 人民から『革命の聖地』として崇められている白頭山の天池でも似た体験をしましたが、こんなに美味しい水はなかった。川の両側には蒼々たる森が広がって、仄かに松茸の香りが漂っていました。素足で歩けば優しい肌触りが感じられるほどたくさん自生しており、父はそれを石の上で焼き食べさせてくれました。その時の香ばしい匂いもまた格別でした」

 ***

(下)へつづく

週刊新潮 2017年12月14日号掲載

特集「独占手記『核開発エリート技官』の脱北妻 北朝鮮核実験場『豊渓里』で見た死の光景――キム・ピョンガン」より

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