「9.11を超えるテロが起こる」エルサレムに大使館を移すと何が起きる? 佐藤優氏が解説

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 アメリカのトランプ大統領は12月6日、中東のエルサレムをイスラエルの首都と公式に認め、現在テルアビブにあるアメリカ大使館をエルサレムに移設すると正式表明した。

 エルサレムは、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教共通の聖地で、帰属 が争われている都市だ。ユダヤ人国家のイスラエルが、1967年にエルサレム全域を実効支配し首都と定めた一方で、アラブ側はエルサレムからのイスラエル軍の撤退を求め、東エルサレムを首都とするパレスチナ国家の樹立を要求している。

 そのような不安定な情勢が続いてきたなかで、突然宣言された、アメリカ大使館のエルサレムへの移設。もちろん、パレスチナ側は強く反発しており、各地で抗議デモが拡大している。また、中東やヨーロッパ各国からも、中東情勢に悪影響が及ぶのではないかと批判の声が上がっている。

 作家で元外務省主任分析官の佐藤優氏は、9月刊行の自著『ゼロからわかる「世界の読み方」』で、アメリカ大使館のエルサレムへの移設を予言した上で、どうしてトランプ大統領がこのような宣言をすることになったのか、その真意と今後の展望を詳しく解説している(以下「 」内、同書から引用)。

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「そもそも、これは彼の選挙公約の一つです。これに関して、『そんなことできるはずがない。議会が賛成するはずないし』などとコメンテーターや評論家が喋ったり書いたりしてますが、そんな人たちは全然、事実関係を知らないんだ。(中略)

 1967年までは、エルサレムは東西に分かれていました。西エルサレムがイラエル領、東エルサレムがヨルダン領でした。ヨルダンとイスラエルは国交がありませんから、町の真ん中が鉄条網で区切られていた。ゲートがあって、限られた人間しか出入りできませんでした。(中略)それが六日戦争(第3次中東戦争)の激しい戦闘を経て、東エルサレムを含むヨルダン川西岸地区がイスラエルによって占領されました」

 1976年に東エルサレムを併合したイスラエルは、エルサレム全域をイスラエルにとっての不可分の首都だと主張してきたが、国連はそれを認めなかった。

「その時、国連は安保理決議を全会一致で出して、『これは国連憲章に違反する武力侵攻だ』とイスラエルの主張を認めていません。エルサレムには4つか5つの国の在イスラエル大使館があったのですが、その国連決議の後、みんな逃げていきました。イスラエルは時々中南米の小さい国なんかに札束積んで、大使館を作らせもしましたが、いま現在エルサレムに大使館は一つもない」

 そうした中、アメリカでひとつの動きが起こる。

「クリントン政権の1995年、アメリカの議会がイスラエル・ロビーに突き動かされて、『アメリカ大使館をエルサレムに移設する』という法律を採択したんです。ところが、もしエルサレムに本当に移設したら、第5次中東戦争を誘発しかねないわけです。だからアメリカ大統領は『この法律を実行するのに半年間の猶予を下さい』と議会に対してお願いする大統領令を出して、それを議会が毎回承認してきたのです。これはオバマ政権までずうっと続いていました。

 だから、トランプは新たに、エルサレムにアメリカ大使館をつくるぞ、って言っているわけではない。議会で決めた法律が既にあって、この実行を今までは大統領が『待ってくれ』と半年ずつお願いすることを二十何年間続けてきた。それを『私は議会の見解を尊重します。だから歴代大統領のように止めません』と、そう言えばいいだけなのです。トランプが何もしなければ、自動的にアメリカの大使館はエルサレムに移転しないといけなくなるんです。『議会の決めた通りにやる』と言われたら、議会は反論できない。『エルサレムが首都である』と主張するイスラエル側も断れない」

9.11を超えるテロが起こる

 では大使館を移設することで、どんなことが起こるのだろうか?再び佐藤氏の解説を見てみよう。

「移設をしたら、何が起こるか? まずインティファーダ、要するに重火器を用いず、軽火器も用いず、専ら投石を中心としたイスラエルへの抗議運動、軽度の防御を伴った抗議運動が起きるでしょう。イスラエルはこのインティファーダを一番嫌がるんです。要するに、機関銃とか撃ってきてくれるんだったら応戦できるけれども、石を投げているだけの民衆に対して、機関銃なんかで皆殺しにするわけにもいかないから、けっこう手を焼くんです。

 このインティファーダに対して機関銃でなくとも何らかの弾圧を加えると、そこで何人かが死ぬ。それを理由にして、本格的な武力衝突が起きる。それほど火がつきやすいのが、パレスチナとイスラエルの関係です。同時に、ガザ地区を現在握っているハマスは、その機会に自爆テロを激化させるでしょう。そうなるともう総力戦に入っていっちゃう。

 それともう一つ、ヨルダンの人口の6割がパレスチナ難民なんです。今のヨルダンの王家はムハンマドの親戚の末裔で、クライシュ族という由緒正しい部族なのですが、現在の基盤がいかにも弱い。だからパレスチナとイスラエルがガタガタし始めると、王制の転覆する可能性があります。王制が転覆した場合には、あそこにイスラム国ができます。あるいは湾岸諸国のアラブ首長国連邦とかカタールとかクウェートとかバーレーンとか、さらにサウジアラビア、そのへんにも影響は相当及んでくる。目下のところ、アラブ諸国のうちで王様が民心をきちんと掴んでいる国は、おそらくモロッコとオマーンだけで、それ以外はどの国も崩壊の火だねを抱えている。ドミノ式に、そんな状況になっていきかねないんだ。

 そしてアメリカ本国では、2001年9月11日の同時多発テロを超えるかたちでテロが起きますよ。じゃあ、トランプはどう思っているの? それでも構わないと思っている。だって、就任演説ではっきり言ったからね。

『文明社会を結束させ、イスラム過激主義を地球から完全に根絶します』

 つまり、皆殺しにすると。だから敢えて、親イスラエルの姿勢をあからさまにすることによって、時機を引き寄せているのかもしれませんね。別の言い方をすると、そろそろ柿の実が熟すタイミングだ、やっちまっていいんじゃないかと。こういう発想になっている」

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 佐藤氏の言葉通り、トランプ大統領は6日の演説で、「エルサレムをイスラエルの首都と公式に認定する時期が来たと判断した。これまでの大統領はこの件を主要な選挙公約に掲げてきたが、実行しなかった。私は今、実行に移している」と発言。一方、パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム原理主義組織ハマスの指導者、イスマイル・ハニヤ氏も7日ガザで演説し、「われわれはシオニストの敵を前にしてインティファーダを開始するべきだ」と述べた。トランプ大統領の決断が、大きな大きな炎となって、世界を食い尽くさないことを願う。

デイリー新潮編集部

2017年12月12日掲載

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