綾野剛演じるサクラは「理想の上司」! 不育症に向き合った「コウノドリ」第9話

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出産は「奇跡」という言葉

 不育症をめぐって、篠原夫妻の葛藤は続いていた。妻に何をしてやればいいのか、と相談に来た修一にサクラは言う。「僕は、出産は奇跡だと思っています」と。こんなに医学が進歩したのに不育症はいまだに原因がわかっていない。「修一さんが奥さんに寄り添って笑顔にしてあげたいとがんばる姿はいちばんの治療になる」というサクラの台詞の中での「寄り添う」という言葉も、本作で何度も繰り返されてきたものだ。出産という奇跡は、時に医師が妊婦に、時に夫が妻に、つまりは人と人が寄り添いあうことで生まれる。

 沙月の不育症の検査結果は、どれも正常範囲で、原因はわからなかった。結果を説明するサクラの前で、沙月は号泣する。悲しみと申し訳なさ、夫への愛情がないまぜになった野波麻帆の熱演には、心揺さぶられた。サクラは、修一こそが沙月の世界一の味方だと言い、励ます。そして沙月はふたたび夫の腕につかまり、大泣きしたのだった。
 
 その後、妊娠の兆候を得て来院した沙月には、無事に赤ちゃんが宿った。「心拍確認できました」とエコーを指差すサクラに今度こそ沙月は、喜びと安堵の泣き笑いを見せてくれた。

 不妊や不育症に悩む人々は、なかなか他人に本心を明かすことが難しいだろう。結婚して何年も経ってから今年妊娠した私の友人も、もしかしたらひとり涙を流す辛い夜を幾度も過ごしたのかもしれない。第7話での、小松の同期女子会でも、子宮摘出に悩んでいた小松はその事実を友人たちには話せなかった。「産むか産まないか」という二者択一で語られがちな出産の選択肢の陰で「産みたくても授からない」「産みたくても産めない」という人々の葛藤があることを、私たちは時々思い出さなくてはいけないと思う。

 そしてラストシーン。ふらっと産科に姿を見せた下屋。去り際、四宮とサクラに下屋は「私は絶対、2人を超えますから!」と叫んでポーズを決めた。苦笑するサクラに四宮は「下屋のくせに100年早い」と素っ気ない。それでこそいつものペルソナ(サクラたちが勤める総合医療センター)だ、と安心すると同時にいつまで彼らはこうして一緒にいられるのだろう、という思いが胸をよぎる。ずっとこのままいてほしいけれど、きっとそうもいかない。彼らがひとりひとり違う明日を選ぶ日は、そこまで来ている。

西野由季子(にしの・ゆきこ)(Twitter:@nishino_yukiko) フリーランサー。東京生まれ、ミッションスクール育ち、法学部卒。ITエンジニア10年、ライター3年、再びITエンジニアを経て、永遠の流れ者。実は現代演劇に詳しい。新たな時代に誘われて、批評・編集・インタビュー、華麗に活躍。

2017年12月12日掲載

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