習近平は「外交オンチ」だった 国際センス欠如の理由は?

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あんなに尊大だったのに

 最近のミサイル発射をめぐる北朝鮮の動向を見て、トランプ大統領ならずとも、このような感想を失望と共に抱いた人も少なくないだろう。

「なーんだ、結局、中国は北朝鮮に言うことをきかせることができないのか」

 多くの日本人は、大人然とした習近平国家主席の尊大な姿をよく憶えている。

 まだ国家主席になる前、日本の民主党政権時代には、ゴリ押しで天皇陛下との会見を求め、強引に実現させた。

 また、安倍晋三総理との握手の場面で、わざわざ仏頂面を浮かべて記念写真を撮らせたのも、鮮烈な印象を残した。

 こうした強面ぶりは日本人にとって好感を持てるものではないにしても、「タフネゴシエーター」という印象を与えるのには十分だったのは間違いない。それだけに、習近平が本気になれば、北朝鮮を止めることが出来るのでは、という幻想があったのである。

 ところが、実際の周近平には、そもそも「国際センス」は無い、と指摘するのは山本秀也産経新聞元北京支局長だ。

山本氏は新著『習近平と永楽帝』で、この「現代の皇帝」の多角的分析を試みている。同書から、習主席の「国際センス」に関する箇所をご紹介しよう(以下、引用は『習近平と永楽帝』から)。

トランプに反論できず

 2017年4月、習近平はトランプ大統領とフロリダ州の大統領別荘で初めて会談をした。この会談初日の夕食会で、トランプ大統領がシリアのアサド政権への攻撃を伝えたという一件は有名である。

 問題は、ここでの習近平の反応だ。

「習近平は暫し沈黙したあと、『もう一回言ってくれ』と頼み、『女性や子供を殺すことは許されない』として、米側のミサイル発射に『理解』を示したとされています。

 シリアへの武力行使が、サリンガスと同じく大量破壊兵器である核開発を進める北朝鮮への武力行使を示唆していたことは明らかだったにもかかわらず、習近平はその場で機転の利いた反論は一切できなかったのです。

 中国国内ではあれほど強権を思うままに振るう習近平ですが、外交に関しては決められたシナリオ通りの振る舞いが目立ち、当意即妙に自分の言葉で首脳外交を演じることができていません。

『まるでロボットが話しているようだった』とは、習近平との会談に同席した外国官僚から異口同音に聞く感想です」

乏しい留学経験

 この国際感覚の欠如に関して、山本氏はいくつかの理由を挙げている。そのうちの一つが、習近平の生い立ちである。

 そもそも習近平は「正規の教育をほとんど受けていない」。国家幹部だった父親の失脚に伴い、15歳で農村に下放して6年9カ月も農作業に明け暮れていた。大学は学力ではなく、政治性、階級制を重視した推薦での入学(いわゆる工農兵学生)。しかもその頃は、文化大革命の影響で、国中で正規の教育レベルとはかけ離れた授業しか行われていなかったのである。

 彼が国際感覚を身につけるチャンスがなかったわけではない。1982年には女医でもある最初の妻が、英国留学をすることになった。これに同行するという手もあったのだが、習近平は国内に留まり、地方官僚への転身を図ったのだ。

 そして1985年、習近平はようやく「国際経験」を得ることとなる。

 当時勤務していた河北省の姉妹都市、アメリカのアイオワ州で、ホームステイを含む2週間の研修プログラムに送り込まれたのだ。

「滞在先となったアイオワ州マスカティン郡は、ミシシッピ川をはさんでイリノイ州と接する州のはずれにあり、果てしない地平線が続く農業地帯です。

 ここでホストファミリーを務めたボーチャック家では、この英語をさっぱり解さない中国の共産党官僚を迎え、主客ともどもカルチャーショックを味わったに違いありません」

 田舎でのホームステイが悪いとはいわないが、数少ない海外生活体験がこれ、というのは、大国のトップとしてはいささか寂しいものがある。

人権感覚の欠如

 山本氏は、習近平の国際感覚の欠如を示すエピソードとして、国家副主席時代の発言を引用している。これは2009年、中南米歴訪時、訪問先のメキシコでの華僑華人へのスピーチである。

「一部の腹がいっぱいになってやることのない外国人が、我々の欠点をあれこれとあげつらっている。中国は一に革命を世界に輸出していないし、二に飢餓や貧困も輸出していない。三にこちらの側から相手を責め苛むこともしない。これ以上なにか言うことがあるだろうか」

 このスピーチに関しては、当時、ワシントンに駐在していた山本氏のもとには、米国亡命中の中国民主化活動家から驚きや失望が伝えられたという。

「革命や飢餓を海外に垂れ流さないなんて、普通の国家なら常識以前の話だ。これでは海外からの人権批判に耳を貸すはずがない。この人物が指導者になったら国内の状況はもっとひどくなるだろう」

 もちろん習近平の発言は彼の本音なのだろう。しかし、その本音を外遊中に堂々と言って恥じないこと自体が、彼の国際センスの欠如を証明しているのだ。

 日中外相会談において、河野太郎外相は、中国に対して「大国としての振る舞い方を身につけていただく必要がある」と伝えたという。しかし、そもそもトップにそのような資質があるかどうかが、疑問視されているのである。

デイリー新潮編集部

2017年8月25日掲載

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