北朝鮮ミサイル発射をアメリカがたった一言で止められたのはなぜか 百田尚樹氏激白(2)

社会2017年8月23日掲載

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刺激しなければ安全か

 現状の日本の安全保障をめぐる議論を百田氏はどう見ているか。インタビューの第2弾をお届けしよう。

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 TBSの「サンデーモーニング」という番組で、亀石倫子さんという弁護士の方が発言したコメントがネット上で話題になっていました。

「(日本上空を北朝鮮のミサイルが飛ぶとしても)今の状態をなぜ存立危機事態と言えるのか。国民の生命、自由、幸福追求を根底から覆えすと言えるのか。国民が納得したうえでなければ、集団的自衛権を行使するのは憲法違反だし、絶対に許されない」

 という意見だそうです。

 亀石さんの主張通りにすれば、グアムに向かうミサイルの迎撃はしてはならない、ということになります。憲法違反ですから。

彼女に限らず、仮に北朝鮮のミサイルが日本の上空を飛んでも放っておいたほうがいい、と考える人は意外といるようです。作家の室井佑月さんも、「迎撃したら破片はどうなるのか」と懸念を示していたそうです。

 彼女らに限らず、「北朝鮮を刺激するな」という立場の人は少なからずいます。ミサイルを迎撃なんかしたら逆効果だ、という人たちです。

 しかし、こういう人たちはそもそも戦争がどういうものなのか、わかっていないのではないでしょうか。

「こちらが戦わなければ、戦争は起きない」

 そう思っているのかもしれませんが、これは私の作品『カエルの楽園』に出てくる、平和ボケのカエルの主張と同じです。

ところが意外と現実の国際政治でもこのような考えをもとに論じる人は多いようです。

 確かに、こちらが抵抗したり、戦ったりしなければ「戦争」にはならないかもしれません。ではその結果、どうなるか。

 歴史が教えてくれるのは「一方的な虐殺が起こる」ということです。

『カエルの楽園』が現実化した

『カエルの楽園』を書いたときに、強く念頭にあったのは中国の動きでした。中国の「公船」と称する船が、日常的に尖閣諸島付近に現れている。またある時には中国軍機が自衛隊機に異常接近するといった挑発的行動に出るという事件もありました。

 ところが日本国内の反応は極めて鈍い。

 相も変わらず左翼的なメディアは、中国との危機を煽るな、隣国と仲良くせよと言うばかりで、相手を信用すれば平和が保てると言わんばかりの論調を繰り返していました。

 そこで一種の近未来を描いた寓話として書いたのが『カエルの楽園』だったのです。

 しかし、その後この本で書いたようなことが次々と現実化していきました。私が思っている以上に、事態の推移は早かったのです。いつの間にか、近未来の寓話ではなくて、現実世界の寓話に近くなりました。

 さらに中国のみならず北朝鮮が先鋭化していったのです。日本の安全保障環境は極めて厳しいと言わざるをえません。

若い人に知ってほしいこと

 もともと『カエルの楽園』を寓話仕立てで書いたのは、とにかく若い人に日本を取り巻く現状を理解してもらわねばならない、という危機感があったからです。

 その危機感が高まる一方なので、『カエルの楽園』は、今月末、通常よりも1年ほど早く文庫化して発売することにしました。

 実のところ、まだ単行本も売れ行きが止まったわけではないのですが、例外的に時期を早めることにしたのです(余談ですが、現在の状況を少し書き加えて、新しいヴァージョンになっているので、単行本で読まれた方はどこが変わったのかを見つけていただければ幸いです)。文庫にすれば、若い人が手に取りやすいと考えたからです。

 この作品には、平和さえ唱えていれば平和が保てると考える能天気なカエルが多数登場します。現実の日本でいえば、「憲法9条さえ守っていれば平和だ」と考える、いわば「9条教」の信者のような人がこれにあたります。

 困ったことに、60歳以上の多くの人は、憲法9条をひたすら大切に思っている、「9条教」の信者の方が多いようです。特に団塊の世代にその傾向が強くあります。年配の「9条教」信者のような方と、私は何度もお話をして、9条の問題点や矛盾を指摘してきました。するとほとんどの人が納得してくれます。

 ところが、最後にはこう言われるのです。

「百田さんの言うことはもっともだと思うけど……、やっぱり9条って大事だと思う」

 結局、彼らは「9条教」の洗脳から抜け出せないのです。

 一般の方のみならず、新聞やテレビなど、日本のメディアにはこういう人が多くいます。それだけではなく、法学部で教鞭をとっている多くの人もこういうスタンスのようです。

 一時期、話題になりましたが、日本の憲法学者の過半数が自衛隊は憲法違反だと考えているそうです。たしかに憲法を文字通り解釈すればその通りでしょう。しかし問題なのが、彼らは「だから憲法を変えましょう」とは決して言わないということです。

 多くの憲法学者にとっては、日本国憲法は聖典のような存在で、それを変えることはもとより、「現実に合っていないから変えるべきでは」などと考えることもとんでもないのです。彼らの仕事が何かと言えば、実際の法律などが「合憲か違憲か」を判断することであって、その憲法が現実に即しているか否かといった「そもそも」の問題には頭を使おうとしないのです。

 彼らの希望通り、というべきか、日本は戦後ずっと「平和憲法」を維持してきました。「9条」もまったく変わっていません。

 しかしそれで世界は平和に近づいているのでしょうか。

 日本は安全になってきたのでしょうか。

 技術開発を進め、挑発を繰り返す北朝鮮の現状を見れば、答えは明らかではないでしょうか。

 先ほどお話ししたように、60歳以上の人は、「9条教」に洗脳されている人が多いという実感があります。しかし、50代以下、特に若い人にはそうした洗脳を受けている人が多くありません。受けているにしても程度が浅いので、抜け出すことは十分に可能です。

 私はそういう人たちに期待をしているのです。

 ちなみに北朝鮮のグアム近海へのミサイルについてですが、アメリカが「もしグアムの近くにミサイルが打ち込まれたら、報復する」という発言をした途端、北朝鮮はミサイル発射を断念しました。

 これが本当の戦争抑止力です。この20年、日本が「ミサイルを打つのをやめてほしい」といくらお願いをしても、北朝鮮のミサイルは止みませんでしたが、アメリカの「報復攻撃するぞ」という一言だけでミサイルは止まったのです。

 9条を信奉すれば戦争は起こらないと言う人たちは、この現実をどう見るのでしょうか。