接待&事なかれ主義ではつくれない「海外ドラマ」の面白味

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 海外ドラマは仕事としてはあまり観ない。面白いから。あと役者の名前が長いから。そして、海外ドラマと比べて、日本のドラマはどうしてこんなに表現が不自由なのかと悔しいから。これは役者や脚本家が悪いのではなく、接待&事なかれ主義のテレビ局が悪い。重箱の隅つついて文句言う視聴者も悪い。あ、私か。

 この連載で過去に海外ドラマを書いたのは「glee」のスー先生くらいだ。満を持して描く。「SHERLOCK 4」(NHKBSプレミアム)である。気づいたらシーズン4になってたよ。

 高貴な爬虫類系の顔が人気の俳優、ベネディクト・カンバーバッチが現代のシャーロック・ホームズを演じるのだが、まあ、カッコイイ。ムカつくほど高飛車で頭脳明晰。ボンクラなロンドン警視庁が頭を抱える難事件や、市民から寄せられる犬も食わない痴話喧嘩までバッサバサと解決する。

 相棒は元陸軍軍医のジョン・ワトソン(マーティン・フリーマン)。心理的外傷を抱えていたが、奇天烈(きてれつ)かつ高機能な社会不適応者であるシャーロックのお陰で、社会生活に無事復帰できた。

 このふたりの友情は、向き合い方が尋常じゃなく深い。時には相手を欺き、時には酒を飲んでハメを外し、時には復縁不能なくらいの冷戦状態にもなる。拗(す)ねたり甘えたり、押したり引いたりの関係性が、日本のドラマの探偵モノにありがちな「トンデモ設定のご都合主義」を払拭する。謎ときばかりに固執する稚拙なドラマとは異なり、ちゃんと人間ドラマとしても成立しているのだ。だから面白い。だから惹きつける。

 シャーロックはSMの女王様に心奪われたり、大がかりな仕掛けで死んだフリをしたり、トルコ軍に拷問されたり、阿片窟でヤク中になったりもする。机上の空論で綺麗事をほざく日本のドラマとはワケが違う。

 もちろん強力な助っ人というか、厄介なコネクションもいる。シャーロックの実兄で、英国政府に勤めるマイクロフト(マーク・ゲイティス)だ。弟以上に切れ者であり、政府や軍を動かす力さえも持っている。

 そしてシャーロックの宿敵の犯罪者モリアーティ(アンドリュー・スコット)も絡んでくる。シーズン2で自殺したはずだが、再び不気味な影をちらつかせるのがこのシーズン4である。

 私が好きなシーンは3つ。シャーロックが類まれなる観察眼で、人間の属性・習性・生活習慣から嗜好まで明確に言い当ててゆくシーン。そして、シャーロックの脳内を表現するシーン。スパコン並みの頭脳でありとあらゆる状況を考察していくのだが、その映像がいつも美しくて新しい。やっすいCGとは異なり、芸術性も高い。日本では致命的に演技力が低いアイドルや俳優が主演のときに、心情や脳内を言葉で語らせたりするが、シャーロックでは脳内劇場が見事に映像化される。そして、シャーロックとジョンのBL的な心の邂逅(かいこう)シーンも大好きだ。

 ほらね、結果として日本のドラマをディスる構図になるんだよね。なんとかしてよ、このレベルの差を!

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2017年7月27日号掲載

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