ペットボトルが開けられなくなったら要注意… “筋肉減少”の恐怖

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 一定の筋肉量を保っていれば安定的にマイオカイン(筋肉が分泌するホルモンの総称)が分泌され、体を様々なリスクから守ってくれる。が、哀しいかな、筋肉量は加齢と共に減少していく。最も怖いのは、筋肉量が一定のラインを下回る、「サルコペニア」なる状態である。

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 サルコペニアとは、ギリシャ語で“筋肉減少”の意。「加齢性筋肉減少症」とも訳され、体重に占める筋肉の割合が、男性では27・3%、女性では22・0%未満となると、サルコペニアであると診断される。

「サルコペニアとは病気の名前ではなく、加齢に伴って筋肉量が低下した状態のことを指します。一般的に30歳を過ぎると10年で5〜10%のペースで筋肉量が減少します。これは加齢遺伝子の影響と言われていて、皺が深くなったり、白髪になったりするのと、同じメカニズムです」

 そう解説するのは、信州大学学術研究院医学系教授の能勢博氏である。

「どんな人でも、放っておけばサルコペニアになってしまいます。それは、筏に乗って川を流れていくようなもので、何とかして抗わない限りは滝つぼに流れ落ちてしまいます。現代は肉体労働が少ない時代ですし、あまり体を動かさなくても何でも手に入ってしまう。だからこそサルコペニアになってしまう人も多いのです」

■糖を消費する“臓器”

 厄介なのは、自分がサルコペニアになっているかどうかに気付くのが難しいという点。知らぬまに“滝つぼに流れ落ちて”いた、すなわち、寝たきりになっていた、ということも起こり得るのである。そこで、サンディエゴ脊椎財団の飛田(ひだ)哲朗医師に、自分がサルコペニアであるかどうかを確かめる方法を聞くと、

「まず、信号が青のうちに横断歩道を渡りきれなくなっていたら危ない。多くの横断歩道は毎秒1メートルの速さで歩ければ青のうちに渡りきれるよう設計されているのですが、歩く速度がそれ以下になっている場合、サルコペニアの可能性があります。また、ペットボトルや瓶のふたが開けられなくなったら要注意。握力が落ちているということは、全身の筋力も低下している可能性が高いのです」

 筋肉から分泌されるマイオカインの一部に、糖尿病を予防する効用がある。逆に、筋肉量が減少し、サルコペニアになってしまうと、

「肥満や糖尿病などの生活習慣病に結びつきます。筋肉は体を動かすだけではなく、体の中で最も糖を消費する“臓器”としても機能している。筋肉量が減少すると、糖を消費する機能が十分に果たされなくなり、糖尿病になりやすくなってしまうのです」

 と、飛田医師。

「また、サルコペニアになると転びやすくなり、これにより骨折してしまうことも問題です。しかも、サルコペニアの人は骨粗鬆症を併発している場合も多い。例えば、ある施設に入居中の患者さんを調べると、サルコペニアの割合は9割以上、そのうち骨粗鬆症を併発している人は9割以上、という研究結果もある」

「奇跡の物質」マイオカインの分泌を維持するためには、サルコペニアは何としてでも避けねばならない。

特集「『医学者』『科学者』が瞠目!『大腸がん』『糖尿病』『動脈硬化』『アルツハイマー』『うつ病』を防ぐ!! 夢の万能ホルモン『マイオカイン』」より

週刊新潮 2017年7月6日号掲載

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